春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です。春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です。
春風亭一之輔が「ビデオボックス」のキャッチコピーを絶賛する理由(※写真はイメージ)春風亭一之輔が「ビデオボックス」のキャッチコピーを絶賛する理由(※写真はイメージ)
 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「ライバル」。

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 繁華街でよく見かける個室ビデオボックス。

 某店のキャッチフレーズは『ホテルがライバル!!』。のぼり旗をはためかせて、声高らかにライバル宣言しています。

 果たしてこの熱い想いはこんな路地裏から世間に、そしてホテルに届くのでしょうか?

 世の中には無数のホテルがありますから、できれば具体的なホテルの名前を挙げてくれたほうが、はっきり意気込みが伝わっていいんですけど。高級ホテルをライバルとするのか、安いビジネスホテルをライバルとするのか。これ大事なとこですよ。「ホテル」と大枠なところに意志が感じられないような……。「とりあえず言ってみた感」?『帝国』『ニューオータニ』『ヒルトン』『ペニンシュラ』……遠慮しないでドーンとぶつかっていけばいいんですよ。謳うのはタダ。ライバルは高めに設定だ。頑張れ、ビデオボックス!

 そんなこと言いながら、自分を振り返ってみれば「ライバルは誰ですか?」なんて質問はちょっと、いやかなり苦手です。

 取材で聞かれた時は、いつも「……うーん(考えるふり)……ライバルって、自分のなかで設定しちゃうと、その人を越えられない気がするんですよ……あえて、私は作らないようにしてます(微笑)」とか「(考えるふり)その日その日でお客さんの反応って違いますからね。同業者がライバルっていうよりも……目の前のお客さんが『好敵手』ってことですよ……(遠い目)」……みたいに気取って答えがち。「昨日入門した前座から大御所の師匠まで、全員がライバル」……とかもっともらしいことも言ったりします。恥ずかしい。

 聞き手が要領を得ない困った顔をしてると「落語って結局、お客さんの好きか嫌いかですから」とお茶を濁す私。

『この人、俺のライバル!』って名指しで言うのは度胸がいります。名前を挙げたところで、耳にしたご当人にどう思われるか考えちゃうんだなぁ。

 
「いやいや、お前なんか眼中にないし(笑)」「俺のこと意識してたんだー(笑)。なんかそんな気してたわー(笑)」とか、想像しただけで顔が赤くなりますわ。その人のファンから「そらないわー(呆)、ランクが違うし!」とか「お前にライバルとか言われると私の○○が同格と思われるからやめて(怒)」と嫌がられるのも癪だしね。そんな心配してる時点でライバルって言っちゃダメなんだなぁ。

 精神衛生上、ライバルなんて思っていても口にしないで黙ってるに越したことなしですね。

 某ビデオボックスさんには偉そうに言っておきながら、申し訳ない。してみりゃ『ホテルがライバル!』まで言えるってスゴいことなんじゃないですか?「とりあえず言ってみた感」とか言ってごめんなさい。あんた、偉いよ! 頑張ってるよ!

 そんな自分の無力さを、ビデオボックスのソファベッドに寝そべって改めて思い知りました。立派な革張り風じゃないか。俺みたいな人間にとってみれば、京王プラザのスイートルームだ。ていうか、6本までDVDを貸してくれる高級ホテルがどこにあるかってんだ!?

 俺もいつか『◯◯がライバル!』と明日に向かっていけるように頑張る。と誓いながら、寝返りを打ち屁をひとつ。臭いこもるなぁ、ビデオボックス。

週刊朝日 2017年10月27日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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