肺がん手術も鍼麻酔で 帯津良一が語る鍼と灸の効果
連載「貝原益軒 養生訓」
西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。帯津氏が、貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。
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【貝原益軒養生訓】(巻第八の31)
鍼(はり)をさす事はいかん。曰(いわく)、鍼をさすは、気血の滞(とどこおり)をめぐらし、腹中の積(しゃく)をちらし、手足の頑痺(がんひ)をのぞく。(中略)鍼を用て、利ある事も、害する事も、薬と灸(きゅう)より速(すみやか)なり。よく其利害をえらぶべし。
養生訓では鍼についても、灸についても語っています。灸については「灸法」として22項目にわたって詳しく説明しているのに対し、鍼については2項目だけです。
益軒は鍼に対して、「鍼を用て、利ある事も、害する事も、薬と灸より速なり。よく其利害をえらぶべし」(巻第八の31)と、慎重な見方をしていたようです。鍼の禁忌を10項目以上にわたって述べ、「禁戒を犯せば、気へり、気のぼり、気うごく、はやく病を去(さら)んとして、かへつて病くははる。是よくせんとして、あしくなる也。つつしむべし」(同)と説いています。
鍼の禁忌の対象となり、刺してはいけないとされるのは次の人です。【1】高熱の人【2】脈の激しい人【3】大汗をかいている人【4】非常に疲れている人【5】飢えている人【6】脱水の人【7】満腹の人【8】脳性の痙攣(けいれん)を起こしている人【9】生気不足の人【10】入浴直後の人【11】酒に酔っている人。
鍼灸という言葉がありますが、鍼と灸ではまったく異なっていて、正反対の作用をします。
中国医学には基本的な治療法の概念として「瀉(しゃ)」と「補(ほ)」があります。瀉とは体内に生じた邪気を体の外に捨てることです。一方、補は体内で失われた生気を補うことです。
