70歳を過ぎても衰えを感じさせないキャロル・キング(Brian Rasic)
70歳を過ぎても衰えを感じさせないキャロル・キング(Brian Rasic)
ハイド・パークのステージで笑顔を見せるキャロル・キング(Elissa Kline)
ハイド・パークのステージで笑顔を見せるキャロル・キング(Elissa Kline)
キャロル・キング『つづれおり:ライヴ・イン・ハイド・パーク』
キャロル・キング『つづれおり:ライヴ・イン・ハイド・パーク』
キャロル・キング『つづれおり』
キャロル・キング『つづれおり』

 この夏、東京・日比谷の帝国劇場でキャロル・キングの半生を描いたミュージカル『ビューティフル』の日本版が上演された。主人公のキャロル役は水樹奈々と平原綾香のダブル・キャストで、私は水樹奈々の方を見た。水樹奈々には、前傾姿勢を崩さない、がむしゃらでひたむきな印象がある。そんな彼女の演技は、作曲家デビューのために自身を売り込んで宿願を果たすキャロルの姿にうまく重なっていた。

【ステージで笑顔を見せるキャロル・キング】

 それから1カ月。キャロル・キングが1971年に発表して世界的大ヒットとなったアルバム『つづれおり』の復刻盤と、昨年7月3日のロンドン公演をCDとDVDに収めたライヴ盤『つづれおり:ライヴ・イン・ハイド・パーク』が発売された。

 後者での一番の話題は、『つづれおり』の全曲がオリジナル盤の収録順に再現されたことだ。CDは音楽のパートのみの構成。DVDにはMCなども含め、公演の一部始終を収録している。早速DVDを見てみる。

 幕開けで、トム・ハンクス、エルトン・ジョン、ジェイムス・テイラーらがキャロルへの賛辞を寄せる。エルトンに紹介されてキャロルがステージに登場。その風貌は御年74歳(当時)という年齢を物語るが、ピアノの前に座り、リズミカルな「アイ・フィール・ジ・アース・ムーヴ」を歌い始めれば、力強い歌声を伴う圧倒的なパフォーマンスに目を奪われ、年齢のことなど忘れてしまう。

 遠く離れてしまった恋人への思いを歌った「ソー・ファー・アウェイ」をじっくりと聞かせ、大ヒットした「イッツ・トゥー・レイト」へ。間奏でのダニー・コーチマーのギターに続くキャロルのピアノ・ソロに魅せられる。

「ホーム・アゲイン」「ビューティフル」と続き、「ウェイ・オーヴァー・ヨンダー」でソウルフルな歌を披露する。この曲を終えると、スクリーンにターン・テーブルの映像が現れ、レコード盤をB面へひっくり返すという洒落た演出も。

 B面のトップで、ジェイムス・テイラーがヒットさせた「君の友だち」。客席の歌声、興奮は一気に高まり、キャロルが観客に歌を委ねる場面は感動的だ。

 ここで娘のルイーズ・ゴフィンが登場し、「地の果てまでも」。親子のデュエットは次の「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー」でも続く。女性コーラスだけをバックにしたメランコリックな趣による味わい深い歌唱だ。

「スマックウォーター・ジャック」ではキャロルはエレキを手にし、ルイーズもそれに倣い、ダニー・コーチマーとギター・バトルを展開する。「ナチュラル・ウーマン」では71年のBBCライヴでの演奏が映し出され、現在のキャロルの歌声が重なる。時を隔てたコーラスに感動を覚える。

 以上までが『つづれおり』の全曲再現。続けてソング・ライター時代のヒット曲のメドレーを披露。さらには「ヘイ・ガール」やザ・ビートルズも取り上げた「チェインズ」「ジャズマン」などをたっぷりと。

 アンコールには「アップ・オン・ザ・ルーフ」や懐かしい「ロコモーション」も。職業作曲家としてスタートし、シンガー・ソングライターとして成功を収めてきたキャロルの足跡を集大成した内容になっている。

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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