北朝鮮の脅威に晒されている日本。安倍晋三首相と会談したジャーナリストの田原総一朗氏はその内幕を明かす。

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 7月28日の正午から、官邸で安倍首相と1時間以上会った。1階のホールでマスメディアの記者たちに問われて、「首相に、思い切って政治生命をかけた冒険をやらないかと提案したのだ」と説明した。

 その内容を記す。米国のトランプ大統領や中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領などと自由に話せる政治家は、日本には安倍首相しかいない。そして北朝鮮のミサイル連発により、下手をすると大戦争になりかねない危機が迫っている。

 だから、安倍首相が訪米してトランプ氏と会い、時間をかけて事態の切迫について話し、トランプ氏がどういう条件ならば金正恩委員長と対話できるのかをとことん問い、とことん説得する。最終条件ではなく、対話を始める条件だ。そして、トランプ氏が条件を示せば、次に習近平氏とプーチン氏に会う。韓国の文在寅大統領にも会う。説得が難しいのはトランプ氏であって、トランプ氏が条件を示せば、他の首脳を承諾させるのはそれほど難しくはない。そして日本を含む5カ国がそろったところで、安倍首相は北朝鮮に飛んで金正恩氏を説得する。つまり新たな6カ国協議を始めるのだ。

 このことを安倍首相に提案し、安倍首相はそれに強い関心を示した。8月3日に内閣改造が行われ、河野太郎氏が外相となった。そこで翌日に河野氏に会い、安倍首相への提案を話すと、河野氏は強い賛意を示し、8月17日にワシントンで行われた2+2でのティラーソン国務長官との個別会談で、メディアでは報じられなかったが、時間の大半を費やして新たに6カ国協議を設けることを説得したようだ。ところが、ティラーソン国務長官は承認せず、6カ国協議を拒んだという。河野氏は、懸命に説得したようだが、受け入れられなかったということである。日本の政府首脳は、米国の思惑がつかめなくて困惑しているようである。

 
 その後に、北朝鮮はミサイルを連発し、さらに9月3日には、広島に落とされた原爆の10倍の破壊力を持つという水爆の実験を行った。日、米、韓の政府首脳、そしてメディアは、許し難い暴挙だと怒っているが、金正恩氏は、それを格好の挑戦の的だととらえているのではないか。

 米国は6日、北朝鮮に対する追加制裁の決議案を国連安保理の全理事国に配布し、11日の採択を目指しているようだ。ヘイリー米国連大使は、北朝鮮に対するもっとも強力な手段であると強調している。決議案の柱は、石油・液化天然ガスの全面禁輸や、北朝鮮からの労働者の受け入れ禁止、繊維製品の禁輸などだ。金正恩委員長の在外資産凍結、渡航禁止も盛り込まれている。

 確かにこの制裁が行使されれば、北朝鮮は致命的なダメージを被ることになるが、ロシアのプーチン大統領は7日の安倍首相との会談で、はっきり「制裁は解決策にはならない」と言い切った。中国は全面否定ではないが、「圧力は解決策の半分でしかない」と表明している。中ロが反対すれば制裁決議案は採択できない。そのとき、米国はいったい、どうするつもりなのか。

 もし米国が北朝鮮に武力行使すれば、韓国と日本が少なからぬ被害を受ける。その前に、米国が日本に集団的自衛権の行使を求めてきたら、安倍首相はどう対応するのか。武力行使を避けるには、どのような方策があるのか。難しくはあるが、日米韓は懸命に考えなければならない。

週刊朝日 2017年9月22日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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