黒沢:ええ。コンペに選ばれるのがいちばん名誉なことなんですが、それはしんどいんですよ。非常に厳しく見るので、よければほめられますけど、ダメだとなると集中攻撃を受けて、ひどいことを言われる場合もけっこうあるのでヒヤヒヤしますね。「ある視点」はみんな非常に好意的に見てくれて、映画を楽しんでくれるので、とっても幸せな感じがするんです。気がラクです。

林:いまや「クロサワ」というと、黒沢清監督のことにもなってきましたよね。海外でも高い評価を得ていらっしゃって。

黒沢:ラッキーでしたよ。「黒沢」という姓のおかげで、外国に行くとすぐに覚えてもらえるんです。特に映画関係では一発で。

林:「息子」というとちょっとナンですけど、「甥」とかだったら……。

黒沢:最近はさすがにあまり言われなくなりましたけど、「聞いていいかな」「何でしょう」「やっぱり息子さんなの?」とか、こっそり聞いてくる人がまだいます。残念ながらつながりはないんですけど。

林:私が黒沢清監督を知ったのは遅くて、「トウキョウソナタ」(2008年)からなんですけど、あれも海外ですごく評価されましたよね。

黒沢:いつの間にか「海外の人が見るから、そう無責任なことはできない」という緊張感を持つようになりました。また、日本でいちいち「ヒットした」「しない」をあんまり気にしなくても、世界中合わせたらけっこう見てくれてるはずだ、と楽天的に思えるようにもなりました。いろんな意味で海外は励みになります。

週刊朝日 2017年9月15日号より抜粋