落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「大好物」。

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『ホワイト餃子』を知っていますか? 餃子好きには有名なので、名前くらいは耳にしたことがある人は多いでしょう。

 ホワイト餃子の本店は私の故郷・千葉県野田市にあります。いわば野田の3大ソウルフードの一つ(ちなみにあと二つは私的に「大川やの醤油せんべい」と「丸嶋屋の樽最中」)。

 ホワイト餃子はのれん分けされ、今や全国各地に支店がある。「世界のホワイト餃子」と言っても過言ではないでしょう。

 野田では正月やお盆、冠婚葬祭など大勢人が集まるときは、何はともあれホワイト餃子です。早朝から本店前に並び、生のお持ち帰りを100、200個とまとめて買い出しに行く。ホワイト餃子の朝は早い。

 親父に「ホワイト餃子、買いに行くぞっ!」と助手席に座らされると胸躍ったものです。「パパ、明日もホームランだ!」ってなもんです。

 最近は「ホワギョー」と略す人も多いそうですが、野田の人はたいてい敬意を込めて、「ホワイト餃子」とフルネームで呼ばせて頂いております。無精しちゃいけないよ。

 ホワイト餃子は直径4~5センチのたわら形、丸みのある、繭玉のごときフォルム。かなり愛くるしいヤツです。餡はわりあいオーソドックスですが「むしろ皮が主役!!」。モッチリとした厚さで、こしのある皮がなんとも言えない存在感を放ちます。

 そんなホワイト餃子、家庭で焼くとわりと手間がかかるのです。「焼く」というより「茹でて、揚げる」感じでしょうか。フライパンに逆さに敷き詰めて、ヒタヒタの湯で茹でる。湯が蒸発して減ってきたら、大量の油を餃子が浸るくらい入れて揚げ焼きにする。「こんなに油使うの!?」ってくらい入れます。……するとね、焼き目が濃いきつね色、まわりがぷりぷりした乳白色、食欲をそそる、実にいやらしいホワイト餃子ができあがるのですよ。

 
 アツアツのホワイト餃子を噛むと、上の歯は「サクッ」、下の歯は「ムニッ」という上下の歯で同時に異なる食感。小ぶりなので10や20は余裕。高校生のときは50くらいいけたな。

 冷めてもうまい。いや、むしろ私は「晩ご飯の残りモノの冷たくなったホワイト餃子を越える食べ物はない!」と思う。

 台所にラップをかけられて昨夜から放置されたホワイト餃子。出掛けに見つけて、家人の目を盗み、欲望のおもむくまま一つまみ。醤油や酢なんか必要なし。

 昨日とはうってかわって、しなりとだらしなくなったヤツを口に放り込む。口中でほどけていくまま、ゴクリと飲み込んで、また一つ。朝ごはん食べたばかりなのに……歯を磨いたばかりなのに……立ったまんま、台所で餃子を食べている私。

 膝をガクガクさせるような背徳感に襲われながら10個は軽くいけます。口の周りは油まみれで、恍惚の表情。……これはもう餃子の姿をした「合法ドラッグ」と言ってもよいでしょう。

 とにかく、ホワイト餃子。一度食べてみて。そして、余計に買って、楽屋見舞いにください。保冷剤入れて頂ければ助かります。

 いろんなところで『ペヤングソースやきそば』を推してたら、差し入れをたくさん頂いたので、秋からはホワイト餃子!! 「さもしいヤツ」と呼ばば、呼べ。俺はホワイト餃子が好きなんだ。

週刊朝日 2017年9月15日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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