一方、B面はヒットした「ジャミング」をはじめとして快活で楽天的。ソフト&メローな作品もあってファンを驚かせた。

 その『エクソダス』の発表から40年。息子のジギー・マーリーはマスターテープを丹念にチェックし、未発表だったヴォーカル、歌詞、演奏を見つけ出した。新たなバックによる演奏なども加え、曲順も入れ替えて『エクソダス』を再構築した。

 幕開けは「エクソダス」。ピアノ、ホーンの演奏を大きくフィーチャーし、ベース、ドラムスのキックなどの音も前面に出し、強靭なリズム・コンビの存在をアピールする。ボブ・マーリーの歌声もヴォリューム・アップ。オリジナル盤のくぐもるようなサウンドでの幕開けとは異なり、歌声の明快さ、迫力とインパクトが印象的だ。メッセージがリアルに伝わってくる。

 続く「ナチュラル・ミスティック~自然の神秘」の歌声も、オリジナル盤よりも力強い。「異教徒」では、レゲエのリズム・アンサンブルが強調されている。ヒットした「ジャミング」も様相を変え、よりポップな印象に。

 ラヴ・ソングもオリジナルとは印象が異なる。「ワン・ラヴ/ピープル・ゲット・レディ」は、未発表のヴォーカル・トラック10本を編集して制作。未来に思いをはせるようにボブ・マーリーの歌声は明るく、コーダでのはつらつとした表現も印象深い。

 ジギーが新たにバック・トラックを録音した「そっと灯りを消して」は、オリジナル盤でのフュージョン・テイストから、ソウル・テイストを強調した演奏、サウンドに様変わり。ボブの歌声は生々しく、艶めかしさも感じられる。

 唯一、オリジナル盤と同じで、リマスタリングが施されただけの「ソー・マッチ・シングス・トゥ・セイ」が不自然なく最後に収まっている。強烈なメッセージはそのままだが、懐の深さを思わせるゆとりが汲み取れるのが不思議だ。

 ジギーが父の音楽やメッセージに最大限の敬意を払ったのはいうまでもない。

 今回の実験的な側面を批判する向きもあるだろう。オリジナル盤でのダークな曲調は、ボブの身に降りかかった暗殺未遂事件、ジャマイカでの政党不信や当時の社会状況を背景に、ボブが抱えた憂鬱(ゆううつ)や不安を反映していた。将来への希望をラヴ・ソングに託したボブのメッセージは現代にも通じる――ジギーはそれらの点を明確に表現するため、あえて実験を試みたのに違いない。

『エクソダス40』でのボブ・マーリーの明快な歌声、豊かな音楽性は、レゲエの魅力を改めて教えてくれる。同時に、オリジナル盤の持つ意味、意図を明らかにするものだ。ジギーは見事な成果を収めた。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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