手根管と診断法(週刊朝日 2017年8月4日号より)
手根管と診断法(週刊朝日 2017年8月4日号より)

 親指~薬指がしびれて痛む手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)。首からくる症状と間違われることもあり、一般にはあまり知られていないが、欧米のデータでは人口の数%いるとされ見過ごせない。早期治療に取り組むことが重要だ。

 手根管症候群は、てのひらの中央を通り、親指から薬指の親指側まで、3本半の指を支配する「正中神経(せいちゅうしんけい)」が圧迫されて症状があらわれる病気だ。

 正中神経は手首の近くにある手根管というトンネルを通って指に延びている。手根管の中には9本の腱も通っていて、この腱をおおう滑膜(かつまく)という保護膜がなんらかの原因で腫れてトンネル内圧が高くなると、神経が圧迫されてしびれや痛みが出てしまう。

 原因ははっきりわかっていないが、患者の男女比が1対2~5と圧倒的に女性に多いこと、とくに女性の妊娠・出産期と閉経前後の時期に発症しやすいことなどから、女性ホルモンの関与が考えられている。手の使いすぎは症状を悪化させるが、発症の原因になるかどうかはわかっていない。

 また、20年以上人工透析を受けている人にも発症しやすい。人工透析によってアミロイドというたんぱく質が手根管内に沈着して内部が狭くなり、正中神経を圧迫してしまう。この場合は発症に男女差はない。

 手根管症候群の症状は特徴的だ。▼片手、あるいは両てのひらの、親指~薬指の親指側半分にしびれや痛みが出る▼痛みは夜間から明け方に強くなり、眠れないこともある▼手を振ると症状がやわらぐ。

 通常はしびれから始まり、痛みがあらわれるが、しびれから痛みまでの期間は人によって異なり、1週間の人もいれば、1カ月、2カ月の人もいるという。

 とくに中年以降での手のしびれや痛みは、頸椎の加齢で起きる変形性頸椎症などと間違われやすい。横浜労災病院副院長の三上容司医師は次のように話す。

「変形性頸椎症の治療で症状が改善されない場合は、手の外科専門医を受診して、手根管症候群の可能性を探ってみてください」

 横浜市在住の倉本聡子さん(62歳・仮名)は2015年、右手の親指から薬指にかけてしびれを感じていた。そのうち、夜中に同じ場所の痛みで目が覚めるようになったため、近所の整形外科を受診。手根管症候群を疑われ、同年3月、横浜労災病院の手・末梢神経外科を紹介された。

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