これらのデメリットを解決したのが、内視鏡による鏡視下手根管開放術だ。1~2カ所、1センチ弱の切開ですみ、出血もきわめて少ないため、強い駆血は必要ない。手術時間は約30分で、外来でできる、いわゆる日帰り手術だ。術後の痛みも消炎鎮痛薬の内服で抑えられる程度だという。特別なリハビリも不要。ただし、神経や腱を傷つける合併症のリスクがあるため、手の外科などの専門機関での治療が必要だ。湘南病院手・肘の外科センター長の新井猛医師は次のように話す。

「手術をおこなうと、痛みはすぐにとれます。しびれはしばらく残りますが、ほとんどのケースで約6カ月たてば症状はなくなります。再発もまずないといっていいでしょう」

 しかし人工透析を受けている場合は、再発率が高いという。再発の場合、再度内視鏡による手術を受けられるが、3回目以降は従来法になる。

 痛みや出血が少なく、からだへの負担が小さいこと、仕事や家事に支障が出にくいこと、そしてなによりも根治治療であることで、保存療法より手術を選択する人も多いという。

 手根管症候群は症状を我慢して放置していると、親指のつけ根の筋肉(母指球筋)がやせてくる。正中神経は手指の感覚神経でもあり、この筋肉の運動神経でもある。正中神経が障害されると親指への刺激が伝わらず、筋肉の収縮が起こらなくなって萎縮してくるのだ。親指をてのひらに対して垂直に立てることができなくなって人さし指や小指と合わせられなくなり、物がつまめなくなる。

 母指球筋(ぼしきゅうきん)の萎縮が起きていると、手根管開放術だけでは改善が望めず、腱の再建術が必要なこともある。そうなると、入院して全身麻酔での手術になり、おおごとになってしまう。

「早めの治療で完治も望めるのですから、我慢せずに手の外科の専門医を受診して、適切な治療を受けてください」(新井医師)

週刊朝日  2017年8月4日号