御厨貴 東大名誉教授 (c)朝日新聞社
御厨貴 東大名誉教授 (c)朝日新聞社

 天皇陛下の退位を実現する特例法が、参院本会議で自由党を除く全会一致で可決、成立した。天皇陛下が退位の意向を表明してから10カ月。関係者には「皇室国会」はどのように映ったのか。有識者会議座長代理を務めた御厨貴 東大名誉教授に聞いた。

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 昨年10月にスタートした、皇室の行方を決める「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」は、7カ月にわたり、14回の議論を重ねました。

 まず驚いたのは、官邸による徹底的な情報管理でした。我々のところに、次回会議について官邸スタッフが説明に来ますが、書類は必ず持ち帰る。唯一置いていった一枚の紙には、「マスコミに気をつけるように」と書かれていました。我々メンバーの口から次回の会議の内容などについて情報が漏れるのを嫌ったからです。

 報告書に議論の過程は記載しなかったので、「踏み込み不足」といった批判を浴びました。しかし、6人のメンバーが集まった毎回2時間の会議は、議論が絶えず、厚みのある中身でした。座長の今井敬さんが、そのたびに「そろそろ次へ行きましょう」と促したほどです。

 世論でも国会でも焦点となったのは、特例法か皇室典範改正に踏み込む恒久法かという点だと思います。

 昨年8月8日のメッセージを聞いたとき、陛下がSOSを送っておられる、これは緊急避難が必要だと思った。先の代まで対応できる恒久法を練り上げるには、時間がかかる上、要件も抽象度が高くなる。その場合、解釈の余地が生まれ、時の政権や国民もしくは皇族の中から「陛下はお年だからそろそろ引退しては」と、恣意的な力がかかる可能性がある。それだけは避けなければなりません。

 世間には、陛下は典範改正を望まれており、一代限りの特例法は邪道だとの意見もありました。特例法と恒久法を対立概念として捉えられていましたが、違う。今回、菅義偉官房長官が、先例となることを認めたように、有識者会議のメンバーは、「やがて恒久法となると考えるべきだ」と議論の末に出した意見で一致していた。

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