ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「高安関」を取り上げる。

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 絶対的な『愛されキャラ』の誕生です。見事、大関昇進を決めた高安関でありますが、昇進伝達式で述べた口上「正々堂々精進します」に、「なんとも高安関らしい四字熟語ですね!」などと無責任なコメントをしていた人たちを観て、「ちょっと馬鹿にしてない?」と感じてしまったのは私だけでしょうか。高安関を観ているとほのぼのしますし、「頑張れ!」と応援したい気持ちになります。『愛されキャラ』とはそういうもの。そもそもお相撲さん自体が、特異な先入観と“おめこぼし感”の中で捉えられる人たちである故に、「頑張れ!」の一方で、「多少は小馬鹿にしても大丈夫」という横柄な感情を抱かれてしまうのも、『愛されキャラ』に降りかかりがちな現実です。

「過去に何度も部屋を脱走した」とか「横綱・稀勢の里の背中を追う弟弟子」とか、『愛すべき後輩』的要素が満載なのをこれ幸いになのか、『いっそ元AKBの秋元才加と結婚すればいい』なんて論調が高まっているようですが、いったい全体どういうつもりなのでしょう? 事実、秋元才加さんは高安関と同じフィリピンと日本のハーフで幼馴染みだそうです。昨年ぐらいから本場所を観戦されたりもしています。さらにそこへ来て大関昇進のフィーバーも相まって、単なるどさくさ紛れの「ヒューヒューお前ら付き合っちゃえよー」的な無礼講なのでしょうけれど、どうにもこうにも引っかかるのです。どこかふたりに対して、非常に稚拙で乱暴な括り方をしているのではないかと。しかもいきなり『結婚』って。

 
 かく言う私も普段から、人種やセクシャリティや職業を敢えて差別的に表現したり、勝手な想像や妄想でおもしろおかしくしようとする芸風があり、とやかく言える筋合いはないかもしれません。しかしこの件に関してヤバさを感じるのは、『あくまで無意識・無自覚』である上に、「あのふたりお似合い」「結婚したらいいかも」というポジティブな妄想の域を超えて、半ば強制的に見えてしまうところです。「ちょうどいい物件見つけた」という勝手なドヤ感も。

 以前、渋谷区で『同性パートナーシップ条例』ができた時、人から「良かったね! 渋谷区に住めば幸せになれるじゃん!」と言われ、なかなか複雑な気持ちになった経験があります。表層的な『言葉狩り』ばかりに躍起になっている感のある昨今ですが、むしろ悪気のない無邪気さの裏に潜在する無自覚な差別意識の方が、よっぽど怖いし性質(たち)が悪い。だったら自分から率先して「オカマと言ったら切れ痔!」とか「トイレは多目的用を使います!」と言ってしまえば、そのようなものも回避できる。

 とは言え、私も私で勝手に裏を読み取ったつもりになって、勝手に案じているわけで、これもただの『言葉狩り』に過ぎないかもしれません。ただそんな中、当の秋元才加さんがついに物申したご様子。「私の人生、私が選ぶし、好きな人も、好きなものも私が選ぶ」とな。まさに! これまた勝手に胸がスカッとしました。私も自分で選んで渋谷区ではなく新宿区に住んでいるのです。返す返すもおかしな話だ。高安関も渋谷区も、別に悪くもないのに何となく「フラれた」感じになってますし。でも、もし才加さんや高安関が『選んで』いっしょになるならば、心から応援します。だってお似合いだと思いますもの。

週刊朝日 2017年6月16日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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