藤原正彦、美子夫妻(撮影/岡田晃奈)
藤原正彦、美子夫妻(撮影/岡田晃奈)

 数学者にして舌鋒鋭いエッセイストである藤原正彦さん。12歳年下の妻・美子さんはアメリカ生まれで、出会いはお茶の水女子大学の教師と学生だった頃にさかのぼる。35歳の「まったくモテなかった変わり者」が「ボーイフレンドが山ほどいた」23歳の美女に一目ぼれした瞬間からはじまった、喜劇のような夫婦の軌跡とは。

*  *  *

夫:アメリカの大学で教えたあと帰国してお見合いしたら、1引き分け4連敗。もうダメだと思った時に、大好きだった歌手の奈良光枝にソックリの美子に出会って、僕の毒牙にまんまとかかった。

妻:大学の友人から、「すごく変わった先生がいるのよ」と話は聞いていたけれど、実際に会ってみたら、当時の人気歌手トム・ジョーンズばりの長いもみ上げにラッパズボン。

夫:7本あった胸毛もシャツの胸元をはだけて見せていたからね。

――デートすればこっちのもの。夫の毒牙にかかった妻

妻:私がテニス部で一緒にテニスするようになってから「外でご飯でも食べましょう」と。

夫:アンダースコートが一番食い込んでいたからね(笑)。デートすればこっちのものだから、舌先三寸でだましたの。僕は独創的で野性的で自信過剰で傲慢だから、「世界中のヤツは間違っている。右も左も間違っていて僕だけが正しい!」と弁舌を振るったわけ。それに衝撃を受けて惚れたんでしょ。

妻:私も当時は生意気な小娘だったので、自分が話したことにこの人がどう答えるか試すみたいなところがあって。型にはまらない考え方が面白くて、会話はとても刺激的でした。

夫:でも、結婚してくれと言ったら、僕を振るようなことを言ったじゃない? だから、「振ったら思い切りぶつぞ」と脅してやったんです。

妻:脅迫よね(笑)。しかも、まだろくに言葉も交わさないうちに、「結婚相手はもう決めたよ」と、ご両親に報告していたらしくて。

夫:父は「お前みたいなヤツのところに嫁が来てくれるはずがない」と、母は「興信所に調べてもらいましょう」と言ったけど、これを逃すと二度とチャンスはないと思ったんだろうね。すぐに賛成してくれた。

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