日米首脳会談を果たした安倍晋三首相。これからの日米関係に大きな注目が集まるが、作家の室井佑月氏はトランプ大統領にすり寄ろうとする安倍首相に不安を募らせる。

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 2月3日の「朝日新聞デジタル」に、こんな記事が載っていた。

「首相『米の雇用70万人創出』 日米首脳会談で提案へ」

 へ? 首相ってうちの国の首相? 米国のトランプさんは大統領だものな。

 つづきを読んでみる。

<日米首脳会談に向け、政府が検討する経済協力の原案が2日、明らかになった。トランプ米大統領が重視するインフラへの投資などで4500億ドル(約51兆円)の市場を創出し、70万人の雇用を生み出すとしている。日米間の貿易不均衡を批判するトランプ氏に10日の会談で示して理解を得たい考えだが、日本の公的年金資産の活用をあて込むなど異例の手法だ>

 ひゃっ。米国人の雇用を生み出すため、米国のインフラ事業にあたしたちの虎の子の年金資産を突っ込むってか。

 その提案、名前だけは立派だ。「日米成長雇用イニシアチブ」という。

 安倍政権はお互いにウィンウィンの関係を目指すなどと豪語してるが、そんな簡単にいくか?

 会談するためにここまでお土産を用意している安倍首相だ。共同事業なんていっているが、途中で美味しいとこ取りされていると気づいても、文句もいえないに違いない。

 失敗したら、どーせ、この国の国民に借金を押し付けるんだろ? おかしいと思わね? アメリカの雇用のため、アメリカのインフラ投資のため、我々日本国民が尻拭いすることになるかもなんて。

 
 一応、新聞には、この国の企業がイニシアチブを取れそうな事業の一覧が載っていた。

 でも、慶應大学経済学部の金子勝教授はそれを見て、

「これって、国内向けの政府のリーク記事だよね。名前をあげた企業におもねってるだけ。それらの事業がなぜだめだか、一つずつ説明すると……」

 長くなるので省略するが、新聞にあげられた分野をやっている企業も、喜んでいられないという話だった。詳細は、2月3日の「大竹まことゴールデンラジオ!」の「大竹紳士交遊録」を、Podcastかなんかでぜひ聞いてくれ。

 それにしてもさ、この国がトランプ大統領のアメリカと上手くやっていけるという根拠って、まさか2月1日の朝日新聞デジタルに載っていた、「安倍首相に従って…長女から忠告 トランプ氏が裏話紹介」ってことじゃないよな?

 なんでも「あなたは安倍晋三首相に従っていればいいのよ」と、トランプ大統領の長女イバンカが、トランプに忠告をしたんだとか。イバンカが「(安倍は)非常にクレバーな人だ」と褒めていたとか。

 その話を、トランプ大統領が1月28日の日米電話会談で首相に話したと、首相官邸の幹部がマスコミに流している。そうそう、寿司友の田崎史郎さんもワイドショーでこのエピソードを紹介していたっけ。

 アホみたいな根拠と思うのは、あたしだけ?

週刊朝日 2017年2月24日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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