ジャーナリストの田原総一朗氏は、米国が推し進める保護政策から、2月10日に開かれる日米首脳会談を見据える。

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 ドナルド・トランプ米大統領が、大統領令でイラク、シリア、イランなどイスラム圏7カ国からの入国を禁じた。米国のビザを持っていても入国させないという。

 これに対し、米国各地で反対デモが繰り広げられた。政権内でも批判が強く、サリー・イェイツ司法長官代理も反対した。するとトランプ氏は、ただちに彼女を解任した。

 フォード・モーター、GE、そしてトランプ政権に少なからぬ幹部を送り込む金融大手のゴールドマン・サックスなど多くの大企業のCEOも「多様性こそが米国の本質であり、それによって発展した」のだと強く批判した。イギリス、フランス、ドイツなどの首脳も、トランプ氏のやり方を批判している。トランプ氏は国内外で孤立しているようだ。

 トランプ氏はこうした保護政策を断行することを選挙中から強調していたのだが、多くの米国人たちはなぜ彼を大統領に選んだのか。トランプ氏は、オバマ前大統領とは正反対のような人物である。オバマ氏は黒人初の大統領だが、彼は米国の良心、もっと露骨に言えば、米国人の建前の代表だったと思う。民族差別をなくす、移民を受け入れる、戦争をしない、そのために防衛費を削減する。緊張緩和に努める。オバマケアを実施して国民の福祉を向上させる。TPPに加盟する。

 だが、米国人の多くはオバマ大統領の建前に我慢できなくなった。グローバリズムの中で多くの工場がメキシコなど海外に出ていき、おびただしい米国人たちが職を失い、豊かな生活を送る一部のエスタブリッシュメントに強い反発を覚えた。そういう米国人たちが、トランプ氏を選んだ。つまり米国人のホンネがトランプ票となったのである。

 だから、トランプ氏のイスラム排除の大統領令に対して、米国内をはじめ世界中で強い批判が渦巻いても、ロイター通信が全米50州で1月30、31日に行った世論調査では、なんと賛成が49%で、反対は41%でしかない。米国人の多くがホンネでは大統領令に賛成し、トランプ氏はそのことがわかっているから、マスメディアと対決しながら強気に出ているのであろう。

 
 それでは、日本としてはトランプ流にどのように対応すべきなのか。安倍首相は、トランプ氏の大統領令にコメントする立場にないと言い、野党からもマスメディアからも厳しく批判されている。

 だが、日本は先進国の中では移民に対して極端に消極的な国である。自民党だけでなく野党にも反対意見が強く、国会で移民問題が本格的に審議されたこともない。

 元通産官僚で作家の堺屋太一氏は、トランプ大統領は、日本をまねしようとしているのだ、と言った。

 戦後、奇跡と言われた日本の高度経済成長も徹底した保護政策によって実現したのであり、自由化、開放したのは、レーガン大統領の時代に厳しく求められたためだ。当時の首相は中曽根康弘氏で、だから国鉄、電電公社、専売公社などの民営化を行ったのだという。トランプ大統領は、その点でも日本をまねようとしているのだというのである。

 そうなると、2月10日のトランプ大統領との会談で、安倍首相は何を主張すべきなのだろうか。これまで日本は都合良く建前とホンネを使い分けてきたわけだが、いま、実は日本のあり方自体が問われているのではないだろうか。

週刊朝日  2017年2月17日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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