中国を訪問中の両陛下 (c)朝日新聞社
中国を訪問中の両陛下 (c)朝日新聞社

 昨年12月23日に83歳の誕生日を迎えられた天皇陛下。同年8月には生前退位のご意向を発表されたが、同級生の明石元紹さん(82)はその3週間前から、天皇陛下の気持ちを聞いていたという。

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「私が、中国へ行ったことはよかったのだろうか」

 天皇陛下は、ある外務官僚にこうお尋ねになったそうです。

 平成4年、国交正常化20年の節目に両陛下は中国を訪問しました。当時、中国は天安門事件によって国際社会から孤立していました。銭其シン(※)外相はのちの回顧録で「天安門事件を浄化させるために、天皇の訪中が必要だった」と認めています。

 陛下は、平和憲法下における天皇のあり方を、そして自らが実践した公務についても、よかったのだろうか、と全身全霊で考え続ける方なのです。

 8月8日の、退位をにじませるお言葉も、どれだけ長い時間、お考えになったかは、想像できます。

 そして、天皇陛下は平成28年のお誕生日のお言葉で、一年を振り返っています。しかし、それは単純に一年の回顧ではないと思います。果たして象徴天皇のあり方にふさわしいものであったか、という確認ではないでしょうか。

 同時に8月のお言葉にも触れています。

<8月には天皇としての自らの歩みを振り返り、この先のあり方、務めについてここ数年考えてきたことを、内閣とも相談しながら表明しました。多くの人々が耳を傾け、おのおのの立場で親身に考えてくれていることに深く感謝しています>

「公表に当たっては内閣と相談した」とおっしゃっているのでしょう。だが、「特措法」でひとまず処置をしようという政府の有識者会議の議論は、陛下のお気持ちをくみ取っていると言えるのでしょうか。

 陛下から私にお電話があったのは、8月8日のお気持ち表明の3週間ほど前。7月21日のことです。

 陛下とは学習院幼稚園から高等科まで同窓。その後は、馬術部を通じてお会いする機会はありました。ただ、直にお電話でお話しするのは、数十年ぶりです。

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