作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、次期大統領がトランプ氏に決まった米国での“女性性”について考える。

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 子どもの頃、アメリカのドラマといえば「刑事コロンボ」だった。再放送も欠かさず観てきたし、大人になってからも何度も繰り返し観た回もある。

 特に好きなわけではないけれど、忘れられない回がある。確かサブリミナル効果を使った事件で、犯人が「アメリカは世界一の商人の国です」というようなことを、誇らしげに言うシーンがある。アメリカとは商談する男たちの国、物を売って我々は豊かな国をつくってきた、というような内容だった。「え? アメリカって商人の国なの?」と、心から驚いたのを覚えている。「商人の国」ということが、「誇るべきこと」なのかどうか分からなかったし、「夢」とか「自由」を誇るアメリカのイメージから遠いように思った。

 トランプ氏が次期大統領に決定し、久しぶりに、あの「刑事コロンボ」を思い出した。ああ、そうか、アメリカってやっぱり商人の国だったんだな、というかリアルに商人の国になったんだね、と。さらに安倍首相がさっそく挨拶に行ったトランプ氏の部屋が、ザ・金持ちの家すぎて笑った。風水で金色を勧められたのではないかと思うほど、強迫観念的な金づくし。しかも安倍さんがプレゼントしたのは金色のゴルフドライバー。「(内容を)お話しすることは差し控えたい」と安倍さんが秘密にしたがる会話は多分、カネのことだけ。商談の臭いしかしない。もしヒラリー氏が大統領に選ばれていたら、安倍さんは何をプレゼントし、何を語ろうとしただろう。

 
 2016年、地球規模で、ここはまだまだ男の星のようだ。ヒラリー氏は「女だから」負けたわけではないが、女性を性的に貶める発言を軽々とできる男が大統領になれるくらいには、アメリカも男性優位な社会なのだ。ヒラリー氏は選挙後、「最も高いところにあり、最も硬いガラスの天井を破ることができなかった」と語った。「ガラスの天井」という言葉自体は、ずいぶん昔から使われてきた女性差別を表す比喩で、テッペンが見えているのに手を伸ばそうとしたらゴツンと突き当たる感覚をイメージしている。そしてもちろん「いつか割る」という意思も入っている。

 とはいえトランプ氏と安倍さんの「商談」を見ながら、そこにある金ピカのテッペンを、私たちが目指すべきなのかという疑問が湧いてくる。理念と思想ではなく、カネとパワーが物を言うようなビジネスマンの世界で、私たちが見上げるべきテッペンは彼らと同じでいいのだろうか。目指すべきテッペンを間違え続けている限り、ガラスが割れることはないのではないか。

 世界経済フォーラム(WEF)が調査するジェンダーギャップ指数で、日本は今年、144カ国中111位と過去最低の水準だった。ガラスの天井どころかテッペンを見る場所にすら、私たちは立っていない。その現実と闘っている多くの女性たちが見たいテッペンを、希望を持って描きたい。少なくともそこは、金ピカのオジサンたちの世界ではないはずだ。

週刊朝日 2016年12月9日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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