確かに、生易しいいたずらではない。
「こんなことばっかりやってるからさ、僕は勲章なんかもらっちゃいけない俳優なんですよ」
「悪事」のツケを払わされたこともあった。
「撮影所に泥棒が入ったことがあってね、金庫の近くに『クール』という煙草の吸い殻が落ちていた。当時僕は『クール』を吸っていたから、『高倉が犯人に違いない』と言われましたよ。いろんな悪さはやったけど、泥棒はしませんよ。こんなことを繰り返していたのは、ストレスからだったと思う。むちゃくちゃに働かされてましたからね」
1956年のデビュー以来、15年間にわたり、年10本前後の作品に出た。しかも高倉さんの場合、ほとんどが主演作。過重労働の最たるものである。
60年代半ば以降は、「網走番外地」「日本俠客伝」「昭和残俠伝」と人気シリーズを三つも抱えていた。いずれもヤクザや犯罪者といったアウトローだった。
ところが、「あなたへ」で、盟友・降旗康男監督が振った役は刑務官だった。
「制服制帽はあまり好きじゃないんです。外の刑務官よりもね、どうしても中に入っている側に気持ちがいっちゃうんですよね。長年やってましたからね」
そう笑って、少年刑務所の依頼で受刑者に講演をした時のことを話した。
「刑務所からは、武器を携帯しない日本の刑務官の素晴らしさを話してほしいと言われていました。で、受刑者たちを前に話をしたんだけど、ついね、『外で待っている女性のために、一日も早くここを出てください』なんてやって、刑務官の素晴らしさを話すのを忘れちゃった」
「僕はこっち側じゃなくて、あっち側の人間ですから。あっちの役が本当に多かった。政治家の役は一度も来たことがない。断っているんじゃないんです。来ないんです。話が来たら一生懸命やりますよ。やりたいわけじゃないですけど」
「やっぱり悪い政治家を暗殺しに行くような役がやりたいね。法は犯すけど、大衆が手をたたいてくれるような男をね。勲章よりも拍手が欲しい。そう思ったのは勲章をもらってからですけど(笑)。でも、俳優冥利って、そういうことじゃないんでしょうか。ギャラが高いか、撮影日数が短いか、手をたたいてもらえる映画に出たいね」
ここで高倉さんは、当時現役だった大物政治家の名前を挙げた。
「彼は悪そうな顔をしてるよねえ。彼の首を取ったら大衆は拍手ですよ。実際は良い人なのかもしれないんだけど、顔が悪い。吉良上野介をやらせたいよ」