妻:でもね、あるとき、もう、我ながら自己嫌悪で心が折れそうになるぐらい、彼にひどいこと、理不尽極まりないことをしたことがあったんです。詳しくはお話しできないんですけど……。もう、今までの比じゃないな、っていうぐらい、彼には悪いことをしたんです。それでもう、この人に見捨てられても仕方がないな、と思いました。それでも彼は、すべてを許して、受け止めてくれた。

夫:僕ね、本当の愛情って、相手の問題点まで全部引き受けるもんだろう、と思ってるんですよ。だから、ケンカはしても、人間性まるごと、受け止めようと。

妻:それまでの私って「口先では何とでも言える。行動して証明できなきゃ」って気負ってきた。だから彼を、認めないとも言い続けてきた。でも、このときはもう彼を認めざるをえない状況で。そこで、今まで自分で自分をがんじがらめにしていたんだと気づきました。結局、自分の心の問題だったんですよね。

夫:そうだね。

妻:それで「私たち、どうしよう……」って言ったら、「俺は変わらない。今も結婚したいよ」って言うから、じゃ、結婚しよう、って。

夫:結婚したい、っていうのは、ずーっと、言い続けてましたからね。

妻:同じ目的に向かっていても、もっと楽しく、もっと肩の力を抜いて歩ける道もあるんだよ、って。彼に教えられました。

――現在は、妻は仕事がなければ京都、夫はずっと東京の日々。だが、夫は離れていても、朝夕のメールや電話は欠かさないという。

夫:端的に言うなら彩は、黙って努力する人。僕は、口に出すことで動けるタイプ。でも、それでいいんです。彼女は表に立つ人。僕は裏から支えるのが役目。どちらか一人じゃ成り立たない。だから、彼女のために何かできることがあるなら、それでいいんです。

妻:確かに、何かしてくれるときはあてつけがましいほど、口に出してからやってくれるわよね(笑)。

夫:そこかい!

妻:感謝してますって。

夫:しかし、振り返ると、俺ら、大変な人生やな。この先は無事に進めますように。お願いしますね(笑)。

週刊朝日  2016年11月18日号より抜粋