「TPPの見本になったとされる米韓FTAで、韓国では薬価決定のシステムが変わった。政府と保険組合の理事長が決めていた薬価に、外部からの異議申し立てが可能になった。すでに、2015年9月から6件の異議が認められ、一部の異議に限れば11件認められています」(山田氏)

 日本も対岸の火事では済まされない。例えば、薬価の分野で、新しい抗がん剤「オプジーボ」が話題となっている。オプジーボは、肺がんなどに効果があるとして「夢の新薬」とも言われるが、治療で使用すると1年間で3500万円もかかる。今後、投薬希望者が増えると思われ、保険財政の圧迫が懸念されていた。そこで厚生労働省は、来春から最大25%の薬価の引き下げを求めた。待ち望む患者には吉報であるが、企業の業績低下や株価の値下げにもつながりかねない。TPPでは企業による投資活動の保護が前面に出ているため、ある野党議員は、

「高額医薬品の値下げを政府が求めることは、TPP発効後は難しくなるかもしれない」

 と懸念する。

 ただ、米国内でTPP反対の声が強まっていたため、これまでは表立った要求は控えられていた。それも大統領選後には変わる。

 TPPを批判するニュージーランド・オークランド大のジェーン・ケルシー教授は、10月31日に都内で開かれた講演会で、米国はすでに日本に対して「食品の安全基準」「共済事業」などの制度改変も求めていると指摘し、「今後、圧力は増していく」と話した。

 元外務省国際情報局長の孫崎享氏は言う。

「大統領選を通じて、TPPは“死に体”になるほどまでに批判されました。そういった米国の動向を見極めるため、日本以外の加盟国は次々にTPP承認の先延ばしを決めている。そのなかで日本だけが先にTPPを承認しても、米国人の考えが変化するわけではありません。日本の方針は理解に苦しみます」

 米国内の反対をよそに、オバマ米大統領は来年1月の新大統領就任までの「レームダック・セッション」で、TPPの批准を米国議会に求める圧力を強めている。TPPは本当に日本人の利益になるのか。

週刊朝日  2016年11月18日号