落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「ランキング」。

*  *  *

 日本人はランキングが好き。

 何年か前に「面白い落語家ランキング」的なムック本が売られていた。落語会や寄席に来るお客さんにアンケートをとったらしい。「面白さ」なんて人それぞれ感じ方が違う。当たり前だけど落語家には大不評だった。ランクインしても決まりが悪い。

 初心者からすれば他人の意見、しかも数字という分かりやすい「目安」が欲しくなるのだろう。1位なら大安心、10位までに入ってるなら間違いない……という風に。逆に1位だとポピュラー過ぎてちょっと避けようか……となるかもしれない。

 ちなみに私はなーんか微妙な順位だった。本って後々残るものだから、このなーんか微妙な順位が生涯の評価になってしまうかもしれない。ランキングを作るなら、毎年更新するくらいの気概を持ってのぞんで欲しい。

 帰省した時、久しぶりに小学校の卒業アルバムを見た。写真と作文にはさまれて「6年3組・なんでもベスト3!」というコーナーがあった。

 卒業アルバム担当係の女子がおそらく二人くらいで作ったのだろう。アンケートなんか実施しなかったと思う。子どもは……、特に6年生女子は残酷だ。

「カッコいい男子」「足の速い男子」「頭のいい男子」「優しい男子」、すべて1位は竹田くん(仮)。名前の脇に「ハート」まで添えてある。これは竹田ファンクラブの会報か!?

 しかも、「優しい」はお前らの主観でしかない。そもそもこんなランキング作る女どもに、俺は絶対に優しくしない。バカー。

「かわいい女子」「スタイルのいい女子」「もてる女子」という項目があった。今なら完全なセクハラ。先生、とめなさいよ。

 田中さん(仮)は「かわいい・スタイルのいい」で、ともに1位。確かに美少女だった。納得。「もてる」では2位だ。なるほど。まぁ、納得。ちなみに1位は宮原さん(仮)。ちょっとおしとやかな女の子。

 
「性格のいい女子」という項目があった。……いや、これこそランキングにしちゃったらダメだろ。あらら、田中さんはランク外。宮原さんは1位………。

 大人になって見返すと、女子たちの田中さんに対する猛烈な悪意を感じて身震いがした。

 平塚くん(仮)は「ひょうきんな人」で1位。「太ってる人」(今なら大問題!)でも1位。「忘れ物の多い人」という、本当にどーでもいい項目では2位。「平塚、どうせならもっと忘れて1位とれよ!」と思う。

 しかし、後々コレを見て平塚の親兄弟・恋人・奥さん・子供たちはどう思うのだろう……。平塚が今もあの時と変わらないキャラクターでいてくれてることを心から願います。トヨエツみたいなカッコいいおじさんになっちゃってたら……と思うと胸の内がざわついてしかたない。

 私? 私は「テレビを好きな人」の第2位に輝きました。……なんだそれ? 確かに好きだけど。しかも2位……。

「うちのお父さんは6年生の時、クラスで2番目にテレビが好きだったんだぜ!」

 我が子が友達に自慢しても、友達は「なんだそれ?」というだろう。世界中が「なんだそれ?」というだろう。

 こんなハナクソみたいなランキングが今日も日本中で発表され続けている。どうにかしたほうがいい。

週刊朝日 2016年11月11日号

著者プロフィールを見る
春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

春風亭一之輔の記事一覧はこちら