池田:「一極集中はどう思いますか? いいですか? 悪いですか?」と質問されると、世の流れとして「悪いかな」と答える人が多い。でも、尋ね方の問題もあるし、「悪い」ならば、なぜあなたは東京に暮らしているのですか?という視点もないと、実態が見えない。

速水:最後に、人生の終盤の「終(つい)の棲家」について、池田さんに伺いたいです。

 住まい選びの常識として、「郊外で静かに暮らすのが人間らしい」という価値観が語られます。でも、そこから抜け出すと新しいものが見え、人生が大きく変わる可能性がある。本を通じて、僕はそのことを伝えたかった。だから、引っ越しを厭わないほうがいいし、住まい選びも柔軟に考えたほうがよいと考えています。

池田:実情として、引っ越しは簡単ではない面もありますが、速水さんの提唱するスタンスは、ひとつの考え方として悪くありません。

速水:郊外の団地の取材などを通じ、そこで一生を終えるとは考えていなかった高齢者が、抜けられずに暮らし続ける事例を数多く見ました。東京都心のタワーマンションには、郊外から抜け出た高齢の夫婦が引っ越してくることも多い。高齢者層の住居選びは、都心回帰の原動力の一つです。

 私事で恐縮ですが、石川県に暮らす僕の両親は、金沢市郊外の賃貸一戸建てから市の中心街のマンションに引っ越しました。両親は終の棲家とするようです。

池田:一般的に、高齢者は中心部のマンション居住が向いているといわれます。カギ一本で安全管理でき、車への依存度が低い。中心部は買い物難民にもなりにくいですしね。

 一方でリスクもあります。高齢者にとって、たまにしか帰らない家族よりも、近所との日常的なつながりのほうがはるかに強い。引っ越しはそうしたつながりを、物理的に断ち切ってしまう。

 年老いて人生が引き算勘定になると、新しい人間関係をゼロから構築するのは大変。引きこもりとなる可能性も否定できません。

速水:そうなると、元気なうちに引っ越しを考えたほうがいいですね。

池田:終の棲家を求めて引っ越しをするならば、子どもが巣立ち、仕事の面でもモーレツ社員を卒業した50代後半から60代初めが限界ではないでしょうか。この年代なら、まだ体も気持ちも元気ですし、新たなつながりをつくり出す意欲も湧いてくるはずです。

週刊朝日  2016年7月22日号より抜粋