英国のEU離脱が決まったことを受け、国内では国民投票のやり直しの声が上がるなど混乱が続いている。一方で、ヨーロッパ諸国では、所得の格差を要因とした新たな動きが見られるという。ジャーナリストの田原総一朗が解説する。

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 6月23日、英国でEUからの離脱を問う国民投票が行われ、離脱派が勝利した。エコノミストなど多くの専門家は、離脱はないと予想していた。アイルランドのブックメーカー(賭け業者)も「残留確率92%」と予想していたが、結果は離脱だった。

 私もまさか離脱はないだろうと考えていた。EUは第2次大戦後、独仏の両国の対立に終止符を打つために石炭・鉄鋼産業を超国家機関の管理の下に置き、これに他の欧州諸国が参加してECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)が設立されたのが原型で、67年にEC(欧州共同体)となり、93年に「人、モノ、資本、サービス」の移動が国内のように自由となるEUとなった。

 アジアでも、こうした形態が取れないものかと、いずれの国のトップも考えた。いわば理想の政治統合のはずだった。だが、人の移動が自由なため英国への東欧からの移民が増え、英国人の仕事が奪われた。しかも経済力の弱い国々を助けるためのEUへの拠出金が多すぎるということが離脱の要因となったのである。

 だが、離脱が決まった後に、英国国内で離脱を支持した人までもが「失敗だった」と言い始めた。「まさか本当に離脱になるとは思っていなかったので、離脱に投票した」という声が多く、英国政府に2度目の国民投票を求める署名が400万人を超えたということだ。

 こうした中、離脱を強く主張していた英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首が驚くべき発言をした。彼は離脱を支持する理由として、英国からEUに拠出する金額が「週に3億5千万ポンド(約480億円)で、これはひどすぎる」と主張していたのだが、実は、その拠出金の金額は間違っていて、「週に1億数千万ポンド」だったという。拠出金は3分の1の金額だったとファラージ自身が訂正したのだ。

 こうしたことが重なって、英国国内で「離脱派の勝利は行き過ぎだった」という声が強まっている。

 
 その一方で、ヨーロッパの国々では新たな動きが起きている。英国の離脱に刺激されて、フランスの極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首がオランド大統領に「フランスには、EU離脱の理由は英国以上にある。離脱を問う国民投票を実施すべきだ」と直談判した。フィンランドやデンマーク、オランダなどで極右政党が支持率を伸ばしている。

 英国の離脱派と各国の右派政党のスローガンは三つある。「反エリート」「反移民」「反EU」だ。英国でも、EU残留派はエリートやインテリなど中間層以上の階層だった。一方、離脱派は中間層以下の人々が中心であり、彼らはグローバリズムの中で広がり続ける格差に不満を抱いている。そして、その不満は世界に広がる可能性がある。

 反グローバリズムの波はアメリカでも見られる現象だ。共和党のドナルド・トランプ氏が大統領予備選で勝利し、指名獲得が確定した。その原因は、アメリカ人の多くが現状に不満を持ち、極端な反グローバリズムのトランプ氏を支持したということであろう。

 日本でも所得の格差が広がっている。だが、資源がなく、マーケットを海外に求めなければならないわが国では、グローバリズムの否定はあり得ないだろう。反グローバリズムが世界を混乱させていく流れにどう対応するのか。日本には、軽業的な外交が求められることになりそうだ。

週刊朝日  2016年7月15日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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