もはや子供とか大人の次元を超えて、スタジオの茶の間セットを帝劇の舞台にすり替え、「パパ!」と駆け寄る場面では、「あれ? 途中で3回ぐらいターンした?」と錯覚すら起こさせてしまう威力。これが私の言うところの“危なっかしさ”です。毒にも薬にもならない俳優さんたちより、よっぽど観ていてゾクゾクします。

 もちろん技量も備わってる分、あの「私、ちゃんとやれてます」感全開のドヤ演技をすればするほど、ぶち壊されていくリアリティー。なんと性質(たち)が悪い。あ、褒めてるんですよ。この無自覚なズレは、紛れもなく女優としての強みだと思います。この基礎力を持ったまま、年齢や経験を重ね、さらにはみ出し続けていけば……。私の見立てだと、10年後には“白髪染め”や“お洒落ウィッグ”のCMに出演し、任侠映画でかたせ梨乃先生と一戦交えていてもおかしくありません。ついでにひとつ提案なのですが、森光子先生の「放浪記」は、愛菜ちゃんに継承して頂いてはどうでしょう? なんなら来年辺りからでも。まだ12歳ですけど。

芦田愛菜だよッ」という、この世の儚さ、世知辛さ、キナ臭さが凝縮されたギャグフレーズから早5年。当のご本人は「そうよ。あたしゃ芦田愛菜だよ!」とメンチを切り返すぐらいのステージに到達しようとしています。

 女優とは得てして怪物(モンスター)。そんな怪物(モンスター)を時代のアイドルとして、愛で捨てた先には、常識や摂理を超越した未来(しあがり)が、私たちを困惑させるべく待ち構えているのです。美空ひばり、松島トモ子、安達祐実、そして芦田愛菜。時代に弄(もてあそ)ばれた女たちの逆襲、ついに完結。私はしかと受け止めるつもりです。

週刊朝日  2016年6月10日号