「下道を使ったのは時間調整でしょ。運転手の間じゃよくあるよ。時間が余ってサービスエリアで停車してると、トイレとかで皆降り出しちゃって収拾がつかなくなる。面倒だからゆっくり下道で調整するんだ。好みは人それぞれで、ゆっくり走ると眠くなるから、バーッと走って長く止まって、という人もいるけどね」

 細かいルートは運転手個人の裁量で選んでいるのが現場の実態のようだ。

 事故があった深夜2時ごろ。車内は寝静まり、寝息が聞こえる。事故車は反対車線のガードレールを飛び出し、天井側から地面に落ちたとみられている。犠牲者の多くは頭蓋内損傷など、頭や首に強い衝撃を受けた痕跡があった。シートベルトも着けず、睡眠中で受け身もとれない中での惨事……背筋が寒くなる。

 次の休憩所で話しかけた別のバスの30代半ばの運転手は、こう証言した。

「下道は間違えて降りたか、高速に乗りそびれたのでは。2年前の大雪で車300台が足止めになった一件から、碓氷バイパスは危ないので運行ルートにするなって、うちの会社ではお達しがあった。事故は居眠りが原因じゃないか。あの辺は通過時間的にも眠くなるし、俺も今、眠いっすもん」

 昼間きちんと睡眠がとれているのか聞くと、いらついた様子でこう答えた。

「普通眠れないでしょ。普段は日中運行で働いて、急に『明日深夜ね』って言われても眠れないっすよ。バス運転手は年配の人が多くて、俺なんか圧倒的に若いから『深夜行って』って頼まれて、今日も寝てない。給料? 良いわけないじゃん。今すぐ辞めたいよ」

 そうはき捨てると、吸い殻を地面に捨て、バスに戻っていった。

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