作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、「性」は危険で繊細な政治問題だという。

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 どれだけ、悔しかったことだろう。夫婦同姓を規定する民法を合憲と判断した最高裁判決が出た日、夫婦別姓を訴え続けてきた女性がテレビカメラの前で泣いていた。

 裁判官は15人、そのうち女性が3人いた。その3人は全員「違憲」と判断した。96%の女性が結婚後に姓を変えている現実を思えば、「女が変えて当たり前」という、社会的抑圧は大きい。

 夫婦同姓を法律で義務づけているのは、日本だけという。今回声をあげた方々が目指してきたのも、夫婦別姓を義務づけるのではなく、選べるようにする、という選択の自由だ。時代にも、そして世界からも遅れた、女の自由に厳しい判断。そしてその判断をしたのは、全員オジサン。もし、裁判官が半分女性だったら。もし裁判官の男女比が逆だったら。オジサンが3人、女が12人だったら……。

 今回の判決について、ネットを見ていたら、選択的夫婦別姓に反対する人たちが、「同姓がイヤなら結婚するな」というのを、たくさん読んだ。女性が何か声をあげると、こういうしょうもない批判をする人、ホント多すぎる。

 先週、おっぱい募金を批判したら、同じような批判をいくつか受けた。おっぱい募金とは、スカパー!が主催するチャリティーイベントで、女性の非着衣のおっぱいを揉(も)む様子を放送するもの。おっぱい募金をやめろ、という女性たちに対し、「イヤなら見るな」とか、「揉ませるのも、揉ませないのも女性が決めること」「部外者は文句言うな」という批判をする声が向けられている。

 
 夫婦別姓の選択肢はないけど、おっぱい募金には選択肢があるのよね。だからこそおっぱい募金を批判する女たちは、その場に立つ女が「かわいそう」だから、おっぱい募金をやめろ、と言っているのではない。

 スカパー!という大きなメディアが主催し、チャリティーという名のもとに、男のエロの公共性をさらに高めていることを、問題にしている。しかも集まったお金は、HIV啓蒙(けいもう)団体に寄付されたというので、どんな団体か調べたところ、「おっぱい募金」番組を制作するアダルト会社と、同じ住所だった。どんな実績があるか知らないけど、本当にチャリティーなの? そして私たちは、女として、「部外者」ではない。年を取ろうが取るまいが、その場にいようがいまいが、「性」はいまだに最も危険で繊細な政治問題。だから、声をあげている。

 女の体が商品として消費流通されることが当たり前の社会に私たちは生きてる。そして選択肢は女側にあるようにも見える。自分の名前すら選べないのに、男のエロのために女が持っている選択肢はあまりにも多様で、女を複雑に分断する。

 男のエロがあまりに堂々としていることに、私たちは慣れている。社会全体がセクハラ環境なのだ。セクハラ環境とは、イヤなことをイヤだ、と言うだけで消耗する環境のことだ。ふー。性と姓、苦しめられます。

 2016年は、もう少しよい年にしたいものです。

週刊朝日  2016年1月1-8日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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