今国会の最大の焦点である安全保障関連法案が19日に成立した。ジャーナリストの田原総一朗氏は集団的自衛権の行使について線引きがあいまいだと分析する。

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「戦争法案を廃棄せよ」。こう叫ぶデモ隊が14日夜も国会の周りを埋め尽くした。

 15日に朝日新聞が発表した世論調査では、安保関連法案について、「賛成」29%、「反対」54%。国会での議論は、「尽くされた」11%、「尽くされていない」75%となっている。皮肉なことに、国会での審議が進むにつれて、逆に「議論が尽くされていない」という意見がどんどん増えているのである。

 現に、私が司会を務めるBS朝日の「激論!クロスファイア」でも、国会議員による議論を重ねるごとに、次から次へと基本的な矛盾が浮き上がってくる。国民の多くは、安倍内閣が日本をどんな国にしようとしているのか、よくわからないのだ。

 安保関連法案の柱は、集団的自衛権の行使である。昨年の7月に自民党は公明党との間で閣議決定を行い、新3要件なるものを盛り込んだ。

 日本と親しい国、たとえばアメリカが他国から攻撃されて、そのことによって我が国の存立が根底から脅かされる危険性が明白となった場合に、日本は集団的自衛権を行使するというのである。

 戦後70年間、アメリカは5回戦争を行っている。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン戦争、そしてイラク戦争だ。だが、いずれの戦争も、いわばアメリカが仕掛けた戦争であって、アメリカが他国から攻撃されたケースは一度もない。その意味では今後とも、アメリカが他国から攻撃されるということ、特にそのことによって我が国が根底から脅かされるという事態は起きないだろう、と私はとらえている。

 ところが、そのことを自民党の幹部の一人に言うと、9.11事件に言及した。

 
 2001年9月11日に、イスラム過激派のテロリストたちによって、ニューヨークの世界貿易センタービルが自爆テロに遭い、約2700人が死亡した。またワシントンのペンタゴンも自爆テロを受けた。

 このとき、ブッシュ大統領は、「これは戦争だ」と宣言し、アフガン戦争、イラク戦争を敢行した。

 自民党幹部は、これは、明らかにアメリカが攻撃されたのであり、今後とも、これと同様の事態は起き得るというのである。

 もっとも、私は、9.11事件でも、我が国の存立が根底から脅かされることにはなっていないととらえているが、仮にそういう事態が生じたとき、集団的自衛権の行使とは、具体的に自衛隊がどういうことをすることになるのか。

 集団的自衛権の行使だから、自衛隊は当然、武力行使をするのだろうが、とすると自衛隊の派兵ということになるのだろうか。政府は派遣はするが派兵はしないと言っている。

 そしてアメリカが攻撃されたのが他国の領土、領海であったときに、自衛隊は他国の領土、領海で武力行使をすることになるのかどうか。自衛隊が派遣されるとして、その範囲は地理的に限定されているのかどうか。また、自衛隊の規模について限定しているのかどうか。

 こうして点検すると、あいまいなことばかりである。なぜ、こんなにあいまいなのか。

 現在の自衛隊は、法律的に戦力ではないとされている。つまり戦う力はないということだ。政府は、それを何とかして戦える存在にしたいと考えていて、それを国民の多くが危険視しているということではないか。

週刊朝日  2015年10月2日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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