夢はメジャーリーガー (c)朝日新聞社 @@写禁
夢はメジャーリーガー (c)朝日新聞社 @@写禁

 初の世界一を目指し、U18W杯に挑んだ高校日本代表を牽引したのは、関東一のスピードスター・オコエ瑠偉だった。1次リーグではリードオフマン(1番打者)として“足”でチャンスをつくり、2次リーグに入ると6番打者として打点も荒稼ぎした。

 圧巻は2次リーグのカナダ戦だ。1点を先制された二回裏、オコエの打球を相手投手がはじき、ボールが一、二塁間に転がる。 

「相手の隙を突く。それが僕の持ち味ですから」

 50メートル5秒96のオコエは迷わず一塁ベースを蹴り、悠々と二塁に。投手強襲二塁打など、高校野球取材で初めて目にする珍記録だ。さらに三回には2点適時打を放つ勝負強さを見せ、七回には四球で出塁。すると次打者への2球目に盗塁を試み、送球がそれたのを確認すると、すかさず三塁まで到達した。

「走っている最中に、送球がそれたのが見えたのでスライディングをやめたんですけど、(ボールが外野に転がる間に)セカンドとボールの位置を確認して、三塁に走ってもセーフだろうと判断しました。視野を広くするというのは、ずっと心がけていること。たとえば自分が二塁走者となったら、リードをとりながら、ショートとセカンドをどちらも視界に入れておいて、タイミングさえ合えば、三盗にトライします」

 しかし、ショートとセカンドの両野手を同時に確認するとなると、180度に近い視野角が必要なはずだ。どうしても俊足にばかり目が行くが、オコエの2.0以上といわれる視力や視野の広さも超人的である。

「僕だって同じ人間で、ふつうの高校球児っすよ。報道で自分の視力が本当は4.0とか噂されていますけど、そんなないっす(笑)。人よりちょっといいぐらいかな」

 休養日だった9月2日の食事会では、焼き肉店の「上ハラミ」を品切れにするほどの大食漢で、代表選手の中でもムードメーカーになっていた。決勝で日本はアメリカと対戦し、1-2で惜敗したが、5日までの7試合でオコエは3割7分9厘の打率を残し、7打点4盗塁を記録。木製バットも苦にしない打棒を披露した。

 今秋のドラフトで、上位指名されることが確実なオコエの夢はメジャーリーガー。憧れはボストン・レッドソックスの右の強打者ハンリー・ラミレスだという。

「まずは日本のプロで活躍してから、なるべく若いうちにメジャーに行きたい」
 世界一へのチャレンジは、夢に向けた第一歩となった。

週刊朝日 2015年9月18日号