「教えている埼玉のグループに統合失調症の子どもがいます。始めて3カ月ぐらいになります。ぼくらが考えもつかない感覚でものを作っています。すごいですよ。本人も気づかなかった才能が伸びています」

 鍋島さんは、デイケアでiPadを使ってスケッチ画も指導している。ぼくも初めて挑戦したが、指先で画面を触って絵を描くなんて微妙で難しい。

 ぼくはパソコンを使って絵を描くなんて邪道だと最初は嫌っていたが、やってみると筆や色が自由に選べて、これなら、IT画家も夢ではないと不遜にも思い始めている。

 驚くことばかりだ。本山さんが言う脳の代償作用が才能の開花をもたらすのか。ぼくは思う。

 別の取材で建築史家の藤森照信さんを訪ねたときのことだ。20年以上前からの知己である藤森さんはぼくの認知症早期治療実体験ルポに興味を持ってくださっていた。この話をすると、

「おもしろい。新しい脳の動きか。『第三の脳』というネーミングはどうかな」

 第一の脳は現在使っている脳。第二の脳はそのうちの死滅した脳細胞。それで第三の脳がこれまで使っていなくて代償作用で新しく動き出した脳である、と。こんなふうに考え始めると認トレもまた楽し。そんな気もしてくる。

週刊朝日 2015年9月4日号より抜粋