「記憶にもない原爆の影響が、65年目でも出るのです。『戦後』はまだまだ続いていることを実感しています」(井原さん)

 広島で母と妹とともに被爆した亘幸男さん(74)は、当時の様子をほとんど覚えていない。だが、亘さんは1年ほど、原爆のトラウマを抱えていたようだ。

「飛行機が飛来すると、私は家の中に飛び込み、『怖い、怖い』と泣いていたそうです。火事が発生すると、その火の手を見ただけで、『熱い、熱い』と、これまた泣いたそうです。家族で原爆の話はほとんどしませんでした。今となっては、もっと当時の様子を聞いておけばよかった」

 戦後70年の今夏、安倍政権は安全保障関連法案の成立を目指している。亘さんには切実な願いがある。

「この70年間、戦争に巻き込まれなかったが、戦争に遭遇してもおかしくない状況をつくろうとしているように思います。罪のない市民が巻き込まれる原爆投下、戦争を二度と起こしてほしくない。被爆者のひとりとして強く訴えたい」

 この思い、国会に届いているだろうか。

週刊朝日   2015年8月14日号より抜粋