九州電力川内原発(鹿児島県) (c)朝日新聞社 @@写禁
九州電力川内原発(鹿児島県) (c)朝日新聞社 @@写禁

 米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」が2012年に発表した「第3次アーミテージ・ナイ・リポート」(正式名称は「日米同盟 アジアの安定を繋ぎ留める」)。この報告書では、日米両国にさまざまな「改革」を提言しているが、憲法改正までも要求され、「武器輸出三原則」の撤廃や「特定秘密保護法」の制定などはすでに実現している。

 それではなぜ、米国側の要求を丸のみするような政策が次々と実行されているのだろうか。元経産官僚の古賀茂明氏は、このような見方を示す。

「日本側も、米国が怖いから従っているわけではない。日本を軍事大国にしたいと思っている人たちにしてみれば、『言うことを聞かないと米国が日本を守ってくれなくなる』と、見捨てられ論を主張することで、目的を達成できる。『外圧』を利用するこうした手法は、日米構造協議などこれまでの日米交渉でもよく使われてきました」

 ところで、第3次報告書には不可解な点がある。軍事問題が主題のはずの報告書の冒頭の項目に、なぜか「エネルギー安全保障」が置かれ、それも筆頭に「原子力エネルギー」が挙げられているのだ。当時は、東京電力福島第一原発の事故から1年余り後。日本の今後の原発政策がまだ不透明だったこの時期に、報告書はこのように訴える。

<このような状況下で慎重に原発を再稼働することは、我々の観点では正しく責任のあるステップである>

 さらに、日本が20年までに二酸化炭素排出量を25%減らす目標を達成するには、原子力を利用するしかないと力説している。

<原子力は排ガスのないベースロード電源の唯一の実質的ソースであり、将来もそうであろう>

 ちなみに、太陽光や風力など再生可能エネルギーの利用については、一言も触れられていない。この記述は何を意味するのか。前出の古賀氏はこう推測する。

「米国側に、それほど急いで日本に原発再稼働を促す理由があったとは思えない。通常こうした報告書を作成する過程では、米国内の知日派である『ジャパン・ロビー』たちが日本の国防族などと話をして、日本側の意向も採り入れる。この項目は、この構図を日本の原子力ムラが利用して、原発再稼働に『外圧』をうまく使ったといわれています」

 こうなると、報告書は単純な「外圧」文書とも言えない、複雑怪奇なシロモノに見えてくる。

週刊朝日 2015年7月17日号より抜粋