僕が自民党の幹事長だった1990年、イラク軍によるクウェート侵攻を機に湾岸戦争が起こりました。国連の安全保障理事会の了承を得ていたので、当然「日本も参加すべき」と僕は主張した。国連の平和活動は国家の主権である自衛権とは異質のものであり、国連の決議で決定された活動に対しては、日本は積極的に参加すべきなのです。ただし、当時も決して、戦闘部隊を送れと主張した訳ではありません。要請されたような「野戦病院や物資の輸送などの後方支援」を僕は促したのですが、防衛庁、外務省も当時の海部俊樹首相も同意しませんでした。内閣法制局は当時、「後方支援は、武力の行使と一体だから憲法9条に違反する」と言い続けていましたよ。

 ところが、安倍政権下ではもっと広域な活動を可能にする安保法制を提案し、法制局はそれを認める見解を示しています。これまで法制局の見解は何度も変わりましたが、集団的自衛権は行使できないという一線は越えなかった。それが今度は一体、どういうつもりなのか。安倍さんは「国際貢献」などと、表向きはきれいなことを言っているが、本音は自衛隊を自由に海外派兵できる国にすることだ。その証拠に、国連活動(国連の決議)という前提も全く考えていない。つまり、日本が出兵したいところには、いつでもどこでも自由に行けることになる。安倍さんは、軍事的にも大国を目指したいというのが本音だと、僕は思います。

 高村さん(高村正彦副総裁)はもともとリベラルの三木派出身ですし、安倍さんとは考え方が本来全く違うはず。ですから、彼の表情を見ていると心ならずもな感じがします。今の自民党を象徴している気がしますね。自民党内に安倍さんを止める勢力がなくなってしまったのは、本当に情けない話です。自民党は、日本を一体どういう国にしていこうとしているのか、野党もそこを突いていかなければなりません。

(本誌・西岡千史、牧野めぐみ、古田真梨子)

週刊朝日 2015年7月3日号より抜粋