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 詩人、エッセイストの佐々木桂さんが、日本津々浦々に残る田園風景とその米を紹介する本誌連載「美し国、旨し米」。今回は宮沢賢治が愛したコシヒカリの先祖米を紹介する。

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 今でこそ米どころとして名高い新潟だが、昭和初期までは、新潟のお米はあまり人気がなかったらしい。これは我が故郷、秋田のお米もしかり。当時のお米は乾燥しにくいため湿度に弱く、保存に不向き。そのため、県外に出す頃には味が落ちてしまったのだ。

 そこに救世主のように現れたのが、コシヒカリのおじいちゃん(おばあちゃん?)にあたる「陸羽132号」だ。秋田の大曲で作られた日本初の人工交配品種で、冷害に強く、湿地でもよく乾燥した。冷害に苦しむ岩手ではより一層喜ばれ、あの宮沢賢治が自ら普及に努めたという。そのため岩手では「宮沢賢治の米」と呼ばれているとか。

 そんなお米の孫が、作付け比率1位を誇るコシヒカリだ。しかも、2位のひとめぼれ、3位のヒノヒカリ、4位のあきたこまちは、全部コシヒカリの子供で、5位のななつぼしは孫だ。コシヒカリ恐るべし……である。

週刊朝日  2015年5月29日号