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 初夏の頃。長野県の桔梗ケ原には、芽吹いたブドウの棚が薄緑色のじゅうたんのように広がる。一帯は水はけがよく、良質なブドウが穫(と)れる。このブドウで造られたのが、井筒ワインの「NACメルロー」だ。飲んだ人はその味わい深さに、価格を聞いて驚く。

「契約栽培農家さんのおかげです」と醸造を担当する野田森(しん)さんは語る。井筒ワインは、毎年80万本を日本のブドウのみで造り続けてきた。

 1990年代のワインブームで、ワインは飛ぶように売れた。在庫が少なくなった日本のワイナリーは、次々と濃縮果汁などの海外原料を使いだした。しかし、それでは土地ならではの香りや味わいが出ない。社長の塚原嘉章さん(78)は、売る品が底を尽き、得意先から取引を打ち切られても、「ワインは土地のもの。桔梗ケ原のブドウで造るのが原点だ」と信念を貫いた。

 いま、契約農家の数は150軒。農家との信頼関係は揺るぎなく、ほどよい厚みを持ったメルロの味わいとなって、実を結ぶ。

(監修・文/鹿取みゆき)

週刊朝日 2015年5月8-15日号