役所の窓口には年金相談が相次いでいるという (c)朝日新聞社 @@写禁
役所の窓口には年金相談が相次いでいるという (c)朝日新聞社 @@写禁

 年金制度はセーフティーネットとして安心できる制度なのか。大妻女子大学短期大学部教授の玉木伸介氏は、「年金保険料未納4割」報道には根拠がなく悲観する必要はないという。

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 若い世代を中心に、年金制度への不信感が広がっているようです。

 同じ社会保障制度では、健康保険も同じように少子高齢化という構造的な問題を抱えています。それなのに、年金ほどには不安の声が聞こえてこないのは、若い人でも医者にかかれば恩恵を受けられるからです。一方で年金は遠い将来のことなのでイメージできず、不信感が募りやすいのではないでしょうか。

 国民年金保険料の未納率が4割という報道を見て、「自分も払いたくない」とか「破綻する」と思い込む人もいます。しかし、年金は保険料を払わない人は受給できない仕組みであり、「正直者が馬鹿をみる」ことはありません。また、年金には自営業者や学生などが加入する国民年金と、会社員などが加入する厚生年金があり、厚生年金は給料から天引きされるので未納の問題はほぼありません。

 厚生労働省が公表した公的年金の加入状況を見ても、2013年度末で公的年金加入者6718万人に対して、国民年金の2年以上の未納者は259万人だけ。未納率は4%弱なのです。年金制度を破綻に導くような数ではないのです。

 そもそも、どんな経済環境下でも十分な年金を払い続けられる打ち出の小槌のような年金制度など存在しないことを、まずは認識する必要があります。現状の年金制度は、現役世代の給料から集めた分を分配していく仕組みであり、どんな経済環境にも柔軟に対応できるすぐれた仕組みです。年金をいくら支給できるかは、現役世代が得られる所得の額にかかっており、経済が成長すれば受給者は多く年金を得られます。しかし停滞すれば逆の事態が起こり、どの世代も痛みを分かち合うことになるのです。

 公的年金の制度そのものに大きな問題があるのではなく、国が豊かになれば年金も豊かになり、国が貧しくなれば年金も貧しくなるだけなのです。世代間の対立という構図を作るような、制度を批判するのは簡単ですが、後ろ向きの議論をしていても何も生まれません。

 過去約20年にわたり、日本の生産年齢人口は減少傾向にあるにもかかわらず、平均すれば経済はプラス成長です。国民一人ひとりの生産力は向上しているのですから、過度に悲観するのは、もうやめましょう。若い人は自らの労働者としての価値を高める一層の努力をし、高齢者は一日でも長く働き続け、企業経営者は業績向上を目指すことで経済を発展させ、国民の所得を増やしていくことが重要です。

週刊朝日 2015年3月20日号