思春期の女性に多い病気というイメージが強いが、近年、その裾野は広い年代に広がりつつある「摂食障害(せっしょくしょうがい)」。

 関東地方に住む会社員、山本美沙さん(仮名・31歳)は、大学時代、きれいになりたいとダイエットを始めた。食事を抑えると体重がみるみるうちに減り、家族から初めて「かわいい」とほめられた。達成感を覚え、徐々に行動がエスカレート。夕食は、こんにゃくや茹でた野菜だけになり、空腹は、ダイエットコーラを1日2リットル飲んで満たした。45キロあった体重は激減。25歳で自由が丘高木クリニック院長の高木洲一郎医師のもとを訪ねたときは、わずか30キロだった。

 高木医師は、神経性やせ症(拒食症)と診断。カウンセリングをしていく中で、原因は、単に痩せてきれいになりたいことではないことに気付いた。

「幼少期から家族の不仲を見ていて、『いい子』として振る舞ってきたこと、常に人の顔色をうかがい、親の命令に従ってきたことで、自己主張ができなくなってしまったことが背景にあることがわかりました」(高木医師)

 高木医師は心理療法士とともに、自分の意見を主張できるように訓練する「アサーション・トレーニング」を実施。嫌な思いをしたときにその気持ちを訴える練習や、自分の意見を率直に伝える練習をした。そのとき、達成感を味わい、喜びや自信を感じられるようにしていった。

 高木医師は同時に、家族関係の改善をおこなうことも必要と考え、母親に対して集団家族療法や個人カウンセリングをおこなった。「子どもの気持ちを受け止める」ことを目標とし、親が思い描いた展望に強制的に合わせるのではなく、娘の思いをすべて受け入れる姿勢を習得していくよう指導した。

「摂食障害は、食行動の異常という形はとっているものの、親子や夫婦関係がうまくいかなかったり、自分に自信がなく理想と現実の乖離に悩んだりと、心の葛藤が体形への関心に置き換えられていることが多く、内面的な問題に病気の本質があります」(同)

 そのため、単に体重を増やすような薬物投与だけでは根本的に解決しない。

「背景にある問題は個別に違うので、治療法は、一律ではうまくいきません。また、医師一人での限られた時間内の診療では限界があり、心理療法士、栄養士、患者の家族ら多くの人のサポートが必要なのです」(同)

 山本さんは、治療に5年を要したが、今ではすっかり回復。自分の思いを告げられるようになったほか、母親の考え方も変わり、家族関係も良好になった。

週刊朝日  2014年9月12日号より抜粋