埼玉県に住む会社員Bさん(35)の最大の息抜きはシュノーケリング。夏が来ると各地の磯に出かける。

 なかでもお気に入りなのが千葉県にあるひなびた漁村で、自動販売機すらない。あるとき、今まで行かなかった磯で泳いだところ、7センチほどのサザエを見つけた。しかも二つある。海パンのポケットへ入れ、海から上がったとたん、真っ黒に日焼けした地元の男性らしき一団に囲まれた。

「その海パンの膨らみはなんだ!」

 Bさんはまだ事の重大性を認識していなかった。

「そんな大げさな」

 といいつつ、2個のサザエを見せると、

「◯時●分、密漁によりあなたを検挙します!」

 男たちは海上保安官だった。陰から双眼鏡で見張っていたのだった。地元の漁業権を侵
した「密漁」として、濡れたままの海パンで取り調べを受けた。憔悴して帰ると、彼女の反応は厳しかった。

「検挙って何よ! 逮捕? 前科つくの!?」

 彼女の顔には、<サザエ二つ→会社クビ→もうお別れね>と書いてあるように見えたという。

 その後地方検察庁に出頭したが、初犯で、反省していると判断されて事なきを得ている。彼女にフラれることもなかった。ただし、屈辱の記憶はBさんに刷り込まれた。

 その後もBさんはその漁村によく行く。件(くだん)の入り江に行くときは必ず海パンを
膨らまして海に入る。

「その膨らみはなんだ!」

 といわれて囲まれることを夢見ているという。

「サザエではまた捕まる恐れがあるので、スカシカシパンを入れます」

 と、Bさん。スカシカシパンは丸いヒトデのようだが、ウニの仲間。中川翔子が気に入り、アニメキャラクターになっているが、食用には適さず、密漁にもならない。しかしその後、海上保安官に会うことはない。

週刊朝日  2014年6月13日号