大阪府の中学2年生のM君、父のパソコンでアダルトサイトを見ていたところ、過って悪質サイトに登録してしまった。高額な振り込みを催促するメールにおびえ、父に打ち明けると、意外なことを言い始めた。

「詐欺にあうくらいなら俺が買ってきてやる」

 こうして父にエロ本を買ってきてもらう日々が始まった。本当はサイトで見たかったM君だが、父はアナログ人間。なぜかOLモノや盗撮モノにかたよっていたが、買ってもらう手前、文句は言えない。

 蔵書が20冊を超えた高2の春、事件が起こった。

 いつものように本棚の奥に手をのばすと、あるはずのモノが、全てなくなっていた。母が発見し、隠してしまったようだ。仕方なく、M君が父に注文して仕入れたところ、今度は3日後にはなくなっていた。

 こうして謎のサイクルが生まれた。<父に発注、購入→母が発見、隠匿→また父に注文>といった具合で、この間、家族でこの話題が出たことはない。とくに咎める訳でもなく、そしらぬ顔で発掘&隠蔽を続ける母にM君は恐怖さえ感じた。エロ本をめぐる両親の攻防は1年以上にも及び、その間十数冊ものエロ本が神隠しならぬ紙隠しにあった。

 今春無事にM君は大学に合格。入学式を終えて帰ると、本棚の奥に歴代のエロ本が勢ぞろいしてM君を出迎えてくれた。

「お母さんの合格祝いなのかな?」

 思わぬ再会に、少し懐かしい気分になったM君。しかし相変わらず、両親から話題が出ることはない。

週刊朝日  2014年5月9・16日号より抜粋