週刊朝日が入手した黒塗りの医療事故調査委員会報告書(撮影/加藤夏子)
週刊朝日が入手した黒塗りの医療事故調査委員会報告書(撮影/加藤夏子)

 大学病院を舞台にした人気のTBSドラマ「アリスの棘(とげ)」(上野樹里主演)では、治療より自分の研究を優先し、リスクの高い手術を行った結果、患者を死に至らしめ、医療事故の隠蔽に奔走するエリート医師らの姿が描かれている。現実の医療現場でもドラマを彷彿とさせる問題が起こっていることが、本誌の調査でわかった。

 医療事故の舞台となったのは、がん専門病院として国内で3番目に古い歴史をもつ、千葉県がんセンター(矢島鉄也病院長)。

 ここに「院内医療事故調査委員会報告書」と題された文書がある。同センターで2012年9月と13年1月に起きた医療事故についてまとめられたもので、本誌による情報公開請求によって開示されたものだ。A4サイズで10ページ、最終ページには報告した日付として「平成25年8月」と書かれている。

 だが、その内容は読むことができない。開示された文書の9割以上が「個人の権利権益を害する恐れのある情報であるため」との理由で黒く塗りつぶされているからだ。特に、肝心の医療事故についての記述は、その内容がまったく判読できないように加工されている。

 報告書作成の目的の一つに「再発防止」が掲げられているにもかかわらず、これほどまで内容が伏せられているのはなぜか。

 その理由を確認するために、本誌は黒塗りにされる前の“真の報告書”を入手した。すると、そこには同センターが公表していない2人が死亡した医療事故と、医療費の不正請求の実態が、記されていた。

 報告書の1ページ目には、委員会が立ち上がった理由についてこう書かれている。

<短期間に続けて起こった腹腔鏡下膵切除術後の出血死であることを重く受け止め、病院長は日本肝胆膵外科学会に専門家の派遣を依頼し、外部専門家委員2名を含めた院内医療事故調査委員会を招集した>

 わずか4カ月の間に2例の医療事故を起こしたのは、同センターの消化器外科に所属するA医師(男性)。

 膵臓がんの腹腔鏡下手術では、日本での第一人者の一人だ。腹腔鏡下手術についての論文も次々に発表し、日本肝胆膵外科学会の高度技能指導医にも指定されている。いわば、同センターのエース外科医である。

(本誌・西岡千史)

週刊朝日  2014年5月2日号より抜粋