作家の室井佑月氏は本誌連載「しがみつく女」で、歴史的大雪となった東京都知事選挙当日を振り返った。

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 今日は都知事選の投票日だ。朝起きたらびっくり! ベランダに5センチくらい雪が積もっていた。このことも影響ある? ある通信社から電話がかかってきて、「都知事選の結果について話をうかがいたい。結果はすぐわかるでしょうから」といっていた。

 殿でも駄目かい。

 昨晩はネットで候補者たちの街頭演説、「最後のお願い」を見ておった。

 殿は最後まで、良くも悪くも殿だった。立候補後の動きも遅かったし、最後のお願いも必死な感じがしなかった。相方の小泉さんが出来るからって、主役は細川さんだもんな。

 じつは彼の街頭演説はかなりウオッチしていた。彼なら勝てるかも、と応援していたからだ。応援していたからこそ、ずっと歯がゆかった。

 たとえば7日の毎日新聞に、「東京電力は6日、福島第1原発の海側敷地にある観測用井戸で、昨年7月5日に採取した水から放射性物質ストロンチウム90を、1リットル当たり500万ベクレル検出したと発表した」という記事が載った。

 東電は去年の7月に高濃度汚染があることがわかったが、あまりに高い数値だから「まさか」と思って黙っていたのだ。オリンピック招致決定前のことであった。それって許されるの? この国の信用はどうなる?

 こういう重要なことをなぜ、訴えなかった。国、東電、報道機関の、原発に関する隠蔽体質を。

 殿の話は途中からコンパクトオリンピックなどに逸れてしまった。そんなこと、知事になってから訴えればよかったんじゃないの?

 7日の演説で、テレビに出演した際、原発の話を10秒しかさせてもらえなかったと愚痴っていたが、心から国民に訴えなきゃならないことであると思ったなら、司会者がしゃべっているのを遮ってでもまくしたてればよかったのだ。生放送なんだし。そういうことが出来ないところも殿らしいのか。

 せっかく名護市長選挙からいい感じでバトンを差し出されたのに、東京都民としてほんとうに申し訳なく思う。

 それにしても新都知事に当選した舛添さんは、2億5千万円もの政治と金問題が出てきてこれからどうするんだろう。

 舛添さんが代表を務めた「新党改革」が、法律で禁じられている政党助成金や立法事務費による借金返済を行った疑いがあるのだ。借金を国民の税金で払うなんて、猪瀬さんよりも、佐川急便から個人的に金を借り入れた細川さんよりも質が悪いじゃん。

 マスコミは当選後のハネムーン期間でしばらく黙っているの? しばらく黙っていても、いずれは暴かれるわな。ほんで、再選挙をするには金がかかるわな。そうなったら選挙前に情報を開示しなかったマスコミの責任は大きいと思う。

 さあ、投票にいってくるか。気持ちはかなり挫(くじ)けているが。

週刊朝日 2014年2月28日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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