センター試験も終わり、各大学の入試が始まった大学受験。多くのメディアに出演し活躍する精神科医の香山リカ氏が、自身の経験も踏まえて「力を出し切るコツ」を明かした。

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「自然現象を研究したい」という思いから、高3のときに受験したのは東大の理IIだけでした。なんとか受かるんじゃないかと思っていたのですが、極度に緊張して、力を出せなかった。

 親には「1浪まで」と言われました。浪人が決まり、駿台予備学校で東大理IIIを目指す人たちが集まる、いちばん難しいクラスに試験で入りました。そこで一生懸命勉強すればよかったのですが、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)にはまってしまって……。

 浪人のときも東大の理IIを受験。就職を心配した親に、手に職をつけるよう言われて、少し反発しながらも私立の医学部、薬学部の計5学部も受けました。

 私大受験は、思い入れがなくリラックスしていたからか、問題も簡単に見えてすんなり受かりました。一方、本命の東大では、またもや緊張して力を出せなかった。入学したのは私大の医学部です。

 自分の受験を振り返り、精神科医として言えるのは、人には無意識の領域があるということです。東大受験の動機だった「自然現象の研究」も、今となっては本当にやりたかったのか疑問です。東大入試で極度に緊張して失敗したのは、研究者になると大変だという思いがあったのかもしれない。医学部の入試でリラックスできたことを思うと、無意識が医学部を選んだのかもしれない。東大に落ちたときはショックだったけれど、医師という仕事をずっと続けているのは、向いていたのかもしれません。

 そして、私も当時は反発しましたが、親は心配で受験にいろいろ口を出します。受験生は親の言うことにいちいちカッとならないことです。とはいえ、親の言葉がひどいこともあります。学生に聞くと、受験のとき、「そんなことしていると落ちる」といった脅し文句や、「○○さんの子どもは頑張っている」といった比較、「落ちたら恥ずかしい」などと世間体を気にする言葉がイヤだったと言います。受験生の親御さんは、このような言葉は禁句です。

 立教大で、今年のセンター試験の監督をしました。試験開始時は毎回、携帯の電源を切ってあるかチェックするよう言うのですが、露骨に嫌そうに、ふてくされた態度をとる受験生もいます。隣で鼻水をすする音がうるさいと文句を言う人もいましたが、それほど大きな音ではありませんでした。余計なことに神経を使うのは損だと思います。

 志望校に落ちたからといって人生が終わるわけではありません。敏感になりすぎない、イライラしないことが、力を出し切るには大切なのです。

週刊朝日 2014年2月7日号