高齢化が進む日本。かつて世界が経験したことのない高齢化社会を迎える中、100歳以上の超高齢者は増加しているが、最高齢というのは案外延びてはいないという。早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦氏は、その理由についてこう語る。

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 少し前に富山で「近畿北陸地区歯科医学大会」があって、「寿命はどこまで延ばせるか?」と題する特別講演を行ってきた。日本人の高齢化のスピードはすさまじく、今年は100歳以上のお年寄りが全国で5万4千人を超えた。1980年には1千人、1960年には何と100人だったのだから、増加率は半端ではない。昔は100歳になると100万円ものお祝金を出した自治体もあったようだが、今そんなことをしたら、財政が破綻する。

 不思議なことに、100歳以上の方は加速度的に増加しているのに、最高齢はほぼ変わらない。大体111~116歳の間くらいだ。去年の12月に、京都の木村次郎右衛門さんが男性長寿世界記録の認定証をギネスから受けた時は元気そうだったのに、今年6月に116歳で亡くなられたことから考えても、寿命は遺伝的にプログラムされているようだ。

 遺伝的な組み合わせが良い人は長生きして、悪い人は早死にする傾向があるのは本当だと思う。遺伝子に異常があると、ほほ必ず発病する遺伝病もあるが、がんや糖尿病をはじめ多くのいわゆる成人病は、遺伝的因子と環境要因の二つが作用して発病するのであろう。たばこを沢山吸っても肺がんにならない人もいるのに、少しの喫煙で肺がんになる人もいる。

 冒頭に記した歯科医学大会では、私以外にお二人の方が特別講演を行った。そのうちの一つは、難病として知られるバージャー病の原因が歯周病菌であるという岩井武尚博士の発表で、私は大変興味深く聞かせて頂いた。

 バージャー病は国指定の難病で、閉塞性血栓血管炎とも呼ばれ、かつては原因不明と言われていた。20~40歳代の喫煙者に多く、重症になると足先や手先が壊死を起こし、切断せざるを得なくなる場合もある、かなり悲惨な病気である。かつて喜劇王エノケンはこの病気で下肢切断を受けたという。最重症の患者の写真も見せて頂いたが、両手、両足が切断され、それでもたばこを吸っていた。岩井博士によると、過度の喫煙は歯周病を悪化させ、歯周病菌がリンパから血管に入り、血小板に潜り込んで、末梢に運ばれて炎症を起こすという。近年、日本では減少傾向にあるのは歯みがきの励行と喫煙率の低下のおかげだそうだ。

 私が不思議なのは、喫煙や歯周病がバージャー病の要因であることは確かであっても、喫煙者で歯周病がひどくとも、罹患しない人もいることだ。この違いの原因は何なのか。遺伝的な要因が関係しているのではないかと私は思う。

週刊朝日 2013年12月6日号