楽天の快進撃のかなめ、嶋基宏捕手 (c)朝日新聞社 @@写禁
楽天の快進撃のかなめ、嶋基宏捕手 (c)朝日新聞社 @@写禁

 巨人楽天が戦った今年の日本シリーズについてヤクルト監督時代に日本シリーズを3度制覇した野村克也氏はこうぼやく。

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 今年の日本シリーズであえて欲しかったものを言えば、「因縁」だった。

 かつての日本シリーズはセ・パの優勝チームの「この相手には負けたくない」という強い気持ちが表れていた。たとえば西本幸雄さんと川上哲治さん。同い年でかたや選手時代は下積み、かたやスーパースターの戦い。南海を率いた鶴岡一人さんは何度も巨人の厚い壁に阻まれた。水原茂さんと三原脩さんもそうだ。

 なぜ私が因縁や意地を感じなかったのか考えてみると、このシリーズを予告先発制にしたことがあると思う。星野仙一監督が「ファンの楽しみのため」と言いだして始まったそうだが、果たして予告先発制はファンのためだろうか。

 野球ファンは「監督目線」で野球を見ている。先発投手を予想するのもファンの大きな楽しみなんだ。第1戦、先発が田中でなくて則本であることに驚き、「なんで田中じゃないのか」「巨人はどう対応するのか」と想像をたくましくする。それが楽しみなのだ。

 予告先発はそういうファンの楽しみを奪ってしまう。どうして、戦略的にも手の内を見せてしまうのか理解できない。

 第1戦の則本起用は、報道によると中5日という田中のローテーションを守るためだったそうだが、それもどうだろう。

 私だったら、正攻法で初戦はエースを使う。もし違えば、野手は「なんで田中と違うんだ」という、変な空気になってしまう。中5日というのは田中からの要請だったらしいが、それが通ってしまうのも時代であり、甘やかしかな……日本シリーズなのに。

 しかし則本はよく投げた。クライマックスシリーズのときも感じたが危なげなく安心して見てられる。コントロールもいいし、球はマー君より速い。なるほど15勝するだけあると思った。今年の日本シリーズで私の最大の収穫は則本だった。

 それだけに初戦に村田に打たれたホームランはもったいなかった。不用意に1球目を投げた結果だった。

 イチというのはなんでも始まりなんだ。1球目、ワンアウト、先取点……とくに日本シリーズのような短期決戦では、イチを大事にしないといけない。

 第1戦の6回裏楽天の攻撃で、0–1で負けていて無死一塁になって、3番銀次が送りバントしないところに、星野監督がこれまで日本シリーズで勝てない理由がわかった。短期決戦は先制点の比重が大きい。そこで重要になるのがバントですよ。1死からでもバントして、二塁にとにかくランナーを送る。日本シリーズは良い投手ばかり出てくるから、まず早々と点は取れないという作戦を立てるべきなんだよ。

週刊朝日 2013年11月15日号