菅直人元首相のお遍路 「妻のクモ膜下出血もきっかけ」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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菅直人元首相のお遍路 「妻のクモ膜下出血もきっかけ」

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週刊朝日

 四国霊場八十八カ所を自らの足で歩き通す「お遍路さん」を始める人が増えている中、菅直人元首相も結願した一人だ。9年越しで全札所を回り終えたばかり菅氏にお遍路を始めたきっかけとその魅力を聞いた。

*  *  *
 お遍路を始めたきっかけのひとつは、司馬遼太郎の『空海の風景』を読んだこと。もともと歩く旅が好きで10代から一人で紀伊半島や東北を回っていた。2004年に年金未納問題で党代表を退き、直後に妻がクモ膜下出血で倒れました。幸い大きな障害が残ることもなく生き延びられ、人生を振り返るいい機会だと行動に移しました。

 私の場合は1番から88番まで歩く「順打ち」。長い休みは取れず、1回1、2週間の日程で全7回、四国入りしました。総理を辞めた後はSPが付き、それ以外は一人で回りました。

 初回は妻だけに話して準備し、単身徳島県へ。秘書にも知らせていなかったのに、1番札所の霊山寺で支度中にマスコミが集まってきた。後で住職が記者に連絡したと聞き、驚きました。

 歩き始めはきついが、5日目くらいから足が慣れて楽になる。週刊誌の記者に「ケーブルカーで楽をしてるはず」とチケット売り場で待ち伏せされたことがありましたが、もしあの時に乗っていたら政治生命は終わっていたかも(笑)。

 ある日、夕暮れの道を急いでいると、髪を濡らしたおばさんが「道が違いますよ!」って追いかけてきた。頭を洗っている時に家の前を私が通り過ぎ、ちりんちりんという持鈴が聞こえたと。道を間違えるのは一番つらいので、ありがたかったですね。

 泊まるのはほとんど民宿。天気、山道があるかないか、回るお寺の数などによって歩ける距離が違うので、歩き遍路専用の地図を見ながら「このあたりまで進めそうだ」と予想し、2、3日前に電話で予約しました。着いたらすぐに洗濯して風呂に入り、他の泊まり客と一緒に夕飯を食べてバタンキュー。大半は1泊2食付き6500円で、缶ビールを1本付けて7千円くらいでした。

 道中いろいろな人と出会えるのは本当に楽しかった。政治抜きの話をたくさんしました。祭りに参加したり、住職の息子さんと一日一緒に歩いたり。暑い時期の麦茶やスイカのお接待はうれしかった。みかんをいっぱいもらった時はありがたかったけど重くて(笑)。いい思い出です。

 政治活動では飛行機や車であちこちに行き、目的を果たしたら戻る「点から点」の移動。一方、歩き遍路は自分の感覚で動き、過程を楽しむ。時間の流れが全く違うんです。ゆったりとしたなかでその地域の雰囲気や人など、行って帰るだけじゃ感じ取れないものが見え、記憶に残ります。

 歩いている最中は足を踏み出すだけで精いっぱい。「無心」です。歩くこと自体でリフレッシュされ、気持ちが豊かになりました。

 9月29日に88番大窪寺で最後のご朱印をいただきました。門をくぐる際、すがすがしい達成感と同時に寂しさも感じた。長年の宿題で、楽しみでもありましたから。菅笠と金剛杖、納経帳は、お守り代わりに自宅に置いてあります。今は改めて原点に立ち返り、残りの人生で何ができるかを考えたいですね。

週刊朝日  2013年10月18日号


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