中央アジアに位置するキルギス共和国の村では、女性を連れ去り、強引に結婚する風習がある。「誘拐結婚」の実態に迫った。

 突然、男の家に連れてこられた女性は、「もう、やめて!」と泣き続けた。何十人もの年老いた女たちが彼女を取り囲み、その男と結婚するように説得する。耳元で大声で怒鳴ったり、なだめたり、時にキスをして優しくしたり。

 誘拐結婚の風習が残るキルギスの村では、こんな光景は珍しくない。取材したフォトジャーナリストの林典子さん(29)が、花嫁の誘拐の実態をこう話す。

「まず男性が、結婚したい女性を、車などで自分の家へと連れ去ってくる。その後は、男性の親族である年配の女性たちが結婚を承諾させるため、何時間でも説得する。中には、かつて誘拐されて結婚した人もいます」

 誘拐結婚は法律で禁止されているが、女性が自殺でもしない限り、男性が罰せられることはない。また、一度誘拐されると、結婚を拒むことは難しい。

「ここでは、女性は一度でも男性の家に入ると、純潔が失われたとみなされるため、自宅に戻っても家族に恥をかかせると思ってしまう女性は多い。年配の人は敬うべき存在。年寄りに説得され、あきらめるケースは後を絶ちません」

 その後の人生はさまざまだ。幸せになる人、離婚する人、暴力に悩む人、そして自殺する人……。

「誘拐した男性は、話してみると、礼儀正しく、優しい人も多い」

 矛盾に満ちた小さな社会の風習を、あなたはどう考えますか?

週刊朝日  2013年10月11日号