ドキュメンタリーなどでこれまで多くの話題作を手掛けてきた、オリバー・ストーン氏。アメリカの実情をリアルに描いてきたストーン氏に、田原総一朗氏はインタビューで率直な質問をぶつけたという。

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 数々のヒット映画を監督したオリバー・ストーン氏に8月、インタビューする機会を得た。彼は「もうひとつのアメリカ史」という、アメリカを痛烈に批判するドキュメンタリー作品を発表している。私は、ストーン氏に問うた。

「アメリカは、日本との戦争には勝利した。快勝といっても良い。だが、それ以後の戦争はいずれも成功していないのではないか。朝鮮戦争はいまでも一触即発の状態だし、ベトナム戦争では負けた。アフガン戦争も、アメリカ国民の多くは失敗ととらえている。私の言っていることは間違いですか」

 するとストーン氏は躊躇なく、「おっしゃるとおりだ。アメリカは日本以外のほとんどの戦争で失敗している。ベトナム戦争では、ひとつひとつの戦闘では勝っても、戦争全体では負けました」と、私の予想以上にあっさりと敗北を認めた。そこで、「なぜベトナム戦争で負けたのか」と問うた。

「ベトナム戦争は場所の問題ではなく時間の問題だった。ヴォー・グエン・ザップ将軍やホー・チ・ミンが言ったように、アメリカ軍は数年間しかいなかったが、ベトナム人はずっとベトナムにいるわけだ。人民は占領軍を嫌うもので、占領軍が現地の人々の土地や財産を奪えば、必ず報復を受ける。地元の人々の心をつかまえるのに失敗したのですよ」

 私は、いまでは米国民の多くが反省し、それゆえに大統領選で共和党が敗れたイラク戦争について問うた。

「アメリカはフセイン大統領に戦争を挑む大義名分として、フセインはアルカイダと密接な関係があり、大量破壊兵器を隠し持っていると断定したが、事実ではなかった。アメリカはイラクを制圧することで、中東全体の掌握を狙ったのだと思いますが、大義名分は偽りだと事前からわかっていたはずですから、これはいわば侵略戦争ではないのですか」

 するとストーン氏は、「おっしゃるとおり。たくさんのウソによって、まったく根拠もないのにイラクを攻撃した。ブッシュ政権のネオコンたちは、イラクにまで侵攻して、『次はお前だぞ』といってコントロールを広げていく計画だったわけですが、実際に起こったことは逆でした。失敗したわけです」と、語調を強め語った。本当にアメリカのやり方に怒っているのだ。

 実は、私は以前、一度ストーン氏にインタビューしたことがある。彼が2010年に「ウォール・ストリート」という映画を監督したときだ。ストーン氏は1987年にも「ウォール街」という映画を監督しているのだが、その2作の違いを問うた。

「前作では、ゴードン・ゲッコーという悪者が違法スレスレのビジネスでウォール街を悪くしているというストーリーでしたが、10年のときには、現実のほうがゲッコーをはるかに超えて、ゲッコーの役割を銀行自体が果たすようになっていた。銀行は預金者や国家のことなどまったく考えていない。まさに1%の人間たちが99%の人間たちを犠牲にして莫大な稼ぎを得ているわけです」

 映画「ウォール・ストリート」は、まさにリーマン・ブラザーズ倒産に象徴されるスキャンダラスな大不況を、見事に示したわけだ。アメリカには数多くの問題があるが、一方で、ストーン氏のような人間が、堂々と大批判しながら活躍し続けられる。健全な国だと言えるのだろう。

週刊朝日  2013年9月20日号