なかなか進まない社会保障制度改革。政府は現役世代に重くのしかかる負担を軽減するべくさまざまな方針を打ち出しているが、作家の室井佑月氏はこれらに疑問を呈している。

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 国民年金と厚生年金と共済年金の格差をなくしていこうという話はどうなった? 厚生年金と共済年金は再来年に統合するらしい。けど、国民年金は別だし、格差をなくすにはまだまだ時間がかかるみたい。

 7月30日付の毎日新聞によると、政府の社会保障制度改革国民会議は29日、高所得の年金受給者への課税強化を、8月6日にもまとめる報告書に盛り込む方針を固めたそうだ。

 なんでも、現役世代に偏る社会保障の負担を、「年齢別」から「能力別」にしたいらしい。

 ま、年金をあてにしなくてもいい金持ちのお年寄りはいるわけで、少子高齢化が進む中、今の状態だと若者の負担がハンパないものになるだろうから、それも仕方ないのかも。

 テレビのニュースに出てきた社会保障制度改革国民会議の会長の清家篤氏は、「できるだけ将来世代の負担の増え方が過度なものにならないように、それを我々世代の責任において、どういう風に軽減していくことができるか」といっていた。画面に向かって思わず、「了解」と頷いた。

 弱者へのきちんとした配慮さえできるのなら、もうしょうがないね。次世代の若者へのツケを残さないため、いたしかたないのかも、と思った。

 しかし、その翌日のことだ。29日発売で読むのを忘れていた「日刊ゲンダイ」を眺めていたら、こんな記事が載っていた。「来年度予算はシーリング上限なし」という見出しの記事だ。政府は2014年度予算の概算要求基準(シーリング)で、上限を示さない方針を固めたという。

 記事の中で法政大学の教授・五十嵐仁氏はこう語っていた。「自民党政権は、国土強靭化計画で毎年20兆円、10年間で総額200兆円ものバラマキを行う方針です。シーリングがなければ、役人はテキトーな理由をつけて、あれもこれもと予算を積み上げてくるでしょう」。

「大盤振る舞いを続ければ、消費税5%アップだけではとても支えきれません。今はアベノミクスの異次元緩和で、国債をバンバン発行しても日銀が買ってくれるという甘えがあるのかもしれませんが、(略)将来にツケを回すだけです」

 だよね。「将来にツケを回さない」。それは良いことだ。だが、そのために頑張らされる人間は、もう決められているのよね。普通の国民だ。

 国土強靭化計画で予算がつけられゼネコンは儲かっていいだろうという見方もあるが、そこで働く人たちにどれだけ還元されるやら。

 公務員を減らすって話はどうなった? 議員を減らすって話も。

 統括原価方式になっている電気料金と一緒だな。なんもかんも一緒くたに上乗せして料金にすればいいってやつ。電気はそこでしか買えないから、逆らうことはできない。

 国民もこの国で生きていくよりほかないから、国のやり方に逆らえないのか。

週刊朝日 2013年8月30日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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