自民党が圧勝し、他党が惨敗した東京都議選。その裏では共産党が、唯一躍進していた。その理由をジャーナリストの田原総一朗氏が解説する。

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 参院選挙の前哨戦とみられていた東京都議選で自民党は候補者59人が全員当選、連立与党である公明党も23人全員当選と完勝した。民主党は44人中15人、維新の会は34人中2人、みんなの党は20人中7人、生活の党と社民党は0人と、いずれもふるわなかった。なんと、野党第1党となったのは17人を当選させた共産党であった。この結果をどう捉えればよいのか。

 都議選の、自民党以外の全政党の主張は、言ってみれば「アベノミクス批判」であった。いずれの党も、アベノミクスを厳しく、そしてこと細かに批判していた。私は国民はアベノミクス批判に飽きていると思う。国民が各野党に求めているのは、アベノミクスに代わる対案であり、わが党はこういう政策で日本の経済を成長させる、という具体案なのである。残念ながらどの党も確たる対案を提案せず、だからこそ争点なき選挙で、自民党を完勝させてしまったのである。

 それにしても、なぜ、共産党を除く全政党が自民党の亜流となってしまったのか。その要因は、日本の知識人を自任するほとんどの人間たち、そして新聞やテレビ、雑誌などのマスメディアが、「悪の権化」のように強調した「新自由主義」なる呪縛語の弊害だと、私は捉えている。

 自由主義経済とは、機会の均等を前提にした競争の自由が認められないと成立しない。ところが、自由競争は格差をつくる。少数の勝者と圧倒的多くの敗者を生み出す。社会保障がおざなりになる。だから、市場に政府が介入し、格差をできる限りなくし、社会保障を充実させ、何よりも弱者の救済に力を注ぐべきである、という考え方が、この国ではまるで常識のようにまかり通っている。そして、自民党を除く全政党が、このように主張しているのである。

 そういえば従来の自民党も、小泉純一郎、竹中平蔵の経済政策を「新自由主義」だと強く批判して、新自由主義を悪とする政治を行ってきた。そして、日本経済は確実に“じり貧”となっていたのだ。それに対して、アベノミクスとは根源的な構造改革を目指していた。言ってみれば農業、医療、金融、各省庁などの既得権益集団をぶっ壊して競争の自由にさらさせることであり、誤解を恐れずに言えば、新自由主義を導入しようと図ったのである。

 だが、6月14日に発表した成長戦略と「骨太の方針」は期待はずれだった。従来の既得権益集団を擁護する政策へと大きく妥協してしまったのだ。アベノミクスの弱点を露呈してしまったのである。

 野党はこの矛盾をこそ攻撃すべきで、その意味では絶好のチャンスだった。だが、どの野党も全く攻撃できなかった。攻撃するすべを持っていなかったのだ。野党は新自由主義を「悪の権化」と捉えていたのだが、安倍内閣の大きな妥協とは、いわば新自由主義を捨てることであり、野党に接近したことになるからだ。

 そして、かねて新自由主義を毛嫌いするマスメディアも、当然ながら安倍内閣の大きな妥協、つまり新自由主義放棄を批判するすべを持たなかった。だから都議選は争点がなくなり、攻撃の目標を失った野党群は敗退したのである。そして、資本主義自体を否定して、明確に自民党をはじめ全党を敵にしている共産党が議席を伸ばしたのである。

週刊朝日 2013年7月12日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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