2008年8月に行われた日産スタジアムでの公演を最後に、活動休止に入っていたサザンオールスターズ(SAS)が、この夏、5年ぶりに復活を果たす。リーダーの桑田佳祐さんの背中を押したものは何だったのか。新曲「ピースとハイライト」を読み解きながら、音楽評論家の岡村詩野さんがその理由を探った。

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 来る8月7日に発表されるSAS復活後初となるニュー・シングル「ピースとハイライト」の歌詞にはこのようなくだりが出てくる。

“何気なく観たニュースで/お隣の人が怒ってた……(中略)……教科書は現代史を/やる前に時間切れ/そこが一番知りたいのに/何でそうなっちゃうの?”

 明言こそされていないが、中国や韓国、北朝鮮など隣国~東アジア各国との確執への揶揄(やゆ)であることは一目瞭然。しかしながら、それを受けて桑田は、“希望を携えながら互いの幸せを願うことがそんなに難しいことなのか?”と歌のサビに向けて訴えていく。

 この部分にこそ、今回の活動再開の理由が表出されているのではないだろうか。誰も歌わないなら自分たちが歌う、やはり今の時代にもSASが必要だ、と。2008年にSASが無期限で活動休止を発表した際、桑田は“このままやり続けていても新しいものを作り出すことが難しい”といった発言をしている。常に革新的でありたいと願いつつも、SASかくあるべし、といったイメージにも応えねばならない。その苦悩の中でなかなか答えを出せずに、彼らは無期限活動停止という道を一度は選択したのだろう。

 しかし、その後、桑田はがんの手術を受けて死を意識。カムバックの矢先には東日本大震災が起こり、原発事故を引き起こした。被災地の生活は失われ、桑田の暮らす東京も例外ではなくなった。被災地復興もままならないのに国内の政情は不安定のまま、国外では隣国との確執が後を絶たず、景気回復の見通しもほとんどたっていない。

 かたや音楽シーンを見渡すと、アイドル・ブームは全盛だが、桑田がこだわるロック/ロック・バンドの姿はほとんど見えなくなっていた……。そうした個人としてのいら立ち、アーティストとしてのジレンマが桑田らの背中を強く押し、今回の復活へとつながったのかもしれない。

※JASRAC許諾

週刊朝日 2013年7月12日号