涙を流してストレスを解消させようという「涙活」が注目されている。感動の涙を求めるのは意外と男性、それもおっさんに多いという。

 昨年、韓国に突如巻き起こった“初恋ブーム”。その火付け役は映画「建築学概論」だった。建築家として活躍し、婚約者もいる男性の元に、15年ぶりに現れた、大学時代の初恋の女性。「家を設計してほしい」という依頼を通して、初恋の甘さや切なさがよみがえるラブストーリーに、男性諸氏から「泣ける!」と熱く支持された。

 この映画を日本でも熱烈にプッシュする男たちがいる。その名も「おっサニー軍団」である。昨年日本で公開された韓国映画の「サニー永遠の仲間たち」。

 かつて青春時代を謳歌した女子高の仲良し7人組グループ「サニー」の友情と、25年後の再会を描いた作品だ。この映画を見て涙が止まらなかった放送作家の松崎まことさん(48)たちが、「おっサニー軍団」を名乗り、勝手連的に映画の宣伝を後押し、口コミで評判が広がった。

「40代中盤くらいから涙腺や心のツボを刺激されるようになりました。これは何だろう、とみんなで話していたところ、“おっさんの乙女心”じゃないかと思い至りました」(松崎さん)

 40代になり、今までの恋愛を振り返ったとき、過去には確かに輝きがあった。それと同時に、「もしもあのとき、こうしていれば」という後悔の気持ちもないまぜに襲いかかる。そこにぐっとくるというのだ。

 確かに女性以上に純粋で乙女チック。外見はしっかり中年のおっさんではあるのだが……。「映画館に泣きに行くわけではないんです。『建築学概論』は、現在あっての過去、過去あっての現在がしっかり描かれているから感動できる」(同)。

 同作では、おくてな主人公が初恋の女性に対して悶々とし続けた揚げ句、小さな誤解がきっかけで、彼女と距離が生じてしまう。「あの童貞くんの、手も足も出ないもどかしさ! 映画がプレイバックしていくうちに、自分の深みに落ち込んでしまいます」(同)。

 ちなみにこの映画、ヨーロッパでの反応は、「何で彼は行動に移さないんだ? 変態か?」と散々なもの。“おっさんの乙女心”は世界共通ではないようだ。

「泣きポイントを用意した感動ものってありますけど、逆に反発心が生じます。仮にそれで泣いたとしても、後には何も残らない。脊髄反射ではない涙のほうが、カタルシスが大きいような気がします」(同)

 現在に不満があるわけではなく、単なる懐古趣味でもない。年齢を重ねたからこそ、しみじみと感じられるものがある。

 それが、いい映画に触れた瞬間に、“自己の解放”が起こって涙する。そんなおじさんの心理は納得できる。

週刊朝日 2013年5月31日号