4月4日、黒田東彦(はるひこ)・日銀総裁が新しい金融政策「異次元の金融緩和」を打ち出した。目玉は、日銀が世の中に流すお金の量(マネタリーベース)を2年で2倍の270兆円にするというもの。お金の量は過去13年間で2倍になったが、わずか2年でさらに2倍にする過去最大の「荒業(あらわざ)」だ。しかし異次元、言ってみれば日本が過去に経験したことのない政策だけに「副作用」の大きさを懸念する声もある。

 日銀OBでクレディ・スイス証券の白川浩道・経済調査部長は、短期金利の上昇という悪影響がすでに表面化していると指摘する。短期金利とは、期間が短い貸し出しにつく金利のことだ。

 野田佳彦・前首相が「解散宣言」をした昨年11月14日と今年4月15日を比べると、満期8年以下の国債では金利が上がった(国債の価格が下がった)。

「日銀が、満期までの時間が長い国債を中心に買っていることで、短い国債のほうが手薄になったのでしょう」(白川部長)

 買う人が少なくなれば、価格は下がるのが道理だ。短い国債を多く持つ金融機関にとっては、資産価値がそれだけ目減りしたことになる。白川部長は、金融機関全体で、帳簿上ではあっても年度始めと比べて最大で1兆円の損失が出たと推計する。利益が削られてしまっては、貸し出しの積み増しなど、もってのほかだ。

 それどころか、大手銀行は5月、そろって住宅ローンの金利を引き上げた。期間10年の固定金利の場合、最優遇でも0.05%幅高い年1.40%になる。短期金利だけではなく長期金利も今後上昇すると見たからだ。これでは、住宅購入をためらう人がいるかもしれない。

 金利が上昇するとの見方には、もうひとつの根拠があるという。日銀が毎月、発行額の7割も国債を買うことで、残り少ない国債を投資家が奪い合うような構図になったからだ。あまりに過熱して価格は乱高下し、売買の一部停止措置が何度も発動された。

「もう国債市場は壊れました。しばらく手を出すのは控えます」(ある投資家)

週刊朝日 2013年5月24日号